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「ゆーちゃんと陸はおともだちなの」
「違う!」
「!」
「ッ……あ、ごめん」
ダメだ、足元がふらつく。
こんな自分をどうにか変えたいのに。
亮雅さんから睨まれているような気がして一瞬、視線が泳いだ。
「……陸、優子ちゃんはきっと本当の気持ちを知りたいと思う」
「うそついてないもんっ」
「そうじゃなくて、ね。なんて言ったらいいんだろ……」
「優斗」
「っ! ……はい」
「…………なにも言わなくていい」
胸の奥が急に苦しくなった。
俺はただ陸に本当のことを伝えたくて。
なのにどうして、亮雅さんはそんな顔をするんだろう。
「ゆうしゃん、ててぶるぶるしてる」
「っ、気にしなくていいよ。ちょっと寒いな……今日は」
「陸あついっ、からあげになるの!」
「はは、それ久しぶりに聞いた」
怖い。亮雅さんに嫌われるのは。
陸を傷つけるのは。
なんとか風呂場へ逃げ込むと、ふるえる手をつかんだ。
大丈夫だ。
つかんで、少しジッとしていればすぐに治まる。
「っ……お願い、だから」
「おい」
「ッ!!」
声とともにドアが開いたと思えば、肩から抱き寄せられて身震いした。
「え、ぁ……すみま……」
「しゃべんな」
「……」
「さっきのは違う……お前が辛そうな顔をしていたから言ったんだ。怒ってたんじゃない」
俺が……?
だって亮雅さんが俺を避けていたから。
だから怖くなった。
もしかしたら俺は知らない間に亮雅さんを怒らせていて、それに気づかない自分が怖くて。
「どう、して言ってくれないんですか……」
「なにが」
「俺のことが嫌なら、そう言ってください」
「……なんでそうなる」
「無理、してるじゃないですかっ……そうやって俺がふるえ起こすたびに。でも本当は……嫌なんですよね」
「は……? 俺がいつ嫌だって言ったよ」
優しさが辛い。苦しい。
あのときのような冷たい顔を見るくらいなら、初めからない方がマシだと思ってしまう。
「嫌だから、うんざりしてるから避けてたんじゃないですか」
「避けてねえよ。距離を置こうとしてるのはお前だろうが」
「なっ……俺はそんなこと」
「俺の前では素でいられると思っていた。でも違うんだろ、優斗が本当にしたいことを結局俺は知らない」
「え……?」
亮雅さんの温もりが消えて、俺だけがその場に取り残された。
脱衣場の床はひどく冷たい。
なにが間違っていたのか、亮雅さんのあの悲しげな目がなにを指していたのか、なにも知らない自分。
どうしてこんな……
「ゆしゃぁ?」
「! 陸……」
ドアから顔を覗かせた陸は、穢れをなにも知らない純粋な子どもだった。
「ぶるぶるない?」
「……ないよ」
「うそついたっ、おててまだぶるぶる」
その場に座り込んだ俺の手を陸は正座してにぎってきた。
どうして正座なんだと言う前に、「さむいのとんでけぇ」と唱えていることが頭に残る。
「ありがとう、俺は大丈夫だから亮雅さんのところにいなよ」
「やだっ」
「なんでそんなこと言うんだ、お父さんだろ?」
「りょしゃんはててさむくないもん。ゆしゃん、さむいからあっためるのー」
「……」
俺の手をなでながら言うものだから、思わず陸を抱きしめていた。
「あついぃ」
「陸は注文多すぎ……」
「あたまグリグリっ」
「もう、くすぐったいだろう」
「ゆしゃぁ、あったかいね」
「……陸のおかげでな」
自然と涙は零れなかった。
ただ陸を離したくなくてギュッと抱きしめる。
頭をなで、ありがとうと口にする。
そうしていると荒れた鼓動も手のふるえも、いつの間にか治まっていた。
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