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❖好意
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「こんにちは」
「あ、椎名くん。おつかれさま」
数日が経ち、ようやく看護室へ足を運ぶことも慣れてきた。
本格的な薬の服用には躊躇いがあったが、ここではそういうこともない。
絹井さんはあくまで看護師として対応してくれるため、なんだか気が楽だ。
「うん、脈拍も正常だし落ちついてるよ。苦しくない?」
「はい。大丈夫です」
優しく微笑まれると不意にドキッとしてしまう。
よく亮雅さんもこうして微笑むことがある。
今でも相変わらず気まずい空気が漂うが、いつも陸の存在がそれを緩和してくれた。
「両親とはどう?」
「……連絡するなって言ってるので、なにも」
「そっか。本当はもう1つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか」
「松本くんと何かあった?」
「っ」
ドクンと心臓がなって絹井さんに向き合う。
真剣な顔は苦手だ。
「言いづらかったら大丈夫。2人の問題にまで簡単には踏み込まないよ」
「……すみません」
「ふ……駄目だなぁ。椎名くんを見ていると、松本くんの気持ちが分かってしまうよ」
「え」
手を取られてビクッと肩がふるえるが、それを割れものでも扱うような手つきでなでられて呆然とする。
「手……」
「うん、ごめん。怖がらなくて大丈夫」
「……」
「椎名くんは隠そうとしているけど、悪だなんて思ってはいけないよ。キミのせいじゃないんだから」
「はい……」
亮雅さんに嫌われたくない。
だがその思いが原因で本来の感情を隠している自分がいた。
好きだから一緒にいたい。
でも素直な自分ばかり見せていたら嫌われるかもしれない。
誰に貶されるよりも、それが最も辛い。
休憩を終えて事務所へと戻ると、桜田がなぜか俺の席に座っていた。
「桜田、座るところ間違えてる」
「あ! 椎名先輩っ、デスクに挟んであるのってなんですか? 可愛いなと思って」
「ああ、それは亮雅さんの子どもが描いてくれた絵だよ。前に会っただろ?」
「陸くんでしたっけ。これ先輩ですよね、子どもの絵なのにすぐ分かりますよ。ほらここのまつ毛の長さとか! この子どんだけ先輩が好きなんですか」
「そ、そこまで細かく再現できないだろう。子どもなんだから」
ルーズリーフを手のひらサイズに切った陸の絵は、亮雅さんからもらったメモ用紙の隣に挟んである。
色鉛筆で髪から肌まで丁寧に塗ってくれているが、パンプキンのように黒い丸目が陸らしくていつ見ても癒される。
「先輩、子どもの目を疑っちゃダメですよ。オレも先輩が好きだから分かりますけど、髪の色とか輪郭とか本当に大好きオーラが伝わってきますって」
「桜田が親バカになってどうするんだ」
「あはは。先輩の可愛さに気づく小学生なんて、天才ですね」
「いちいち可愛いって言うな。美濃中の見積書と売店企画書、もうできたのか」
「ええ、もちろん。商品企画なんですけど、ご当地キャラがパッケージになってるものがいくつかあって____」
時刻が17時をすぎた頃だった。
フロントから八木さんに呼ばれて顔を出すと、荷物預かりの台にランドセルを背負った陸が乗っていた。
「うわ! 陸っ」
「ゆうしゃーんっ」
「そこは乗るところじゃないよ。こっちおいで」
「マーちゃんもいるよぉ」
「へ?」
指さした予約受付の方に誠くんの姿も見えて驚きを隠せない。
「がくどーのせんせ、おやすみだからきた」
「あ、そうだった。加藤さんには話してあるから」
「かちょうの人?」
「そうそう、よく覚えてたな。食べものなにかいる?」
「おかしぃっ」
従業員専用のドアを開けて売店に走っていく陸にやれやれと息をつく。
「ふふ、大変そうね。椎名君も」
「……本当にな」
でも、誠くんと楽しげに話す陸は可愛い。
このまま幸せになってほしいと思うが、あまり干渉しすぎもよくないのだろう。
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