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「このしろいクッキーもくださいっ」
「ええ、ありがとうね」
おにぎりとゆで卵、そしてバニラクッキー。
陸の選んだものは意外だったがあまりお腹が空いてないようだ。
「ふへへ〜、おやつのじかん」
「陸、最近クラブどうだ?」
「バスケたのしい! おともだち、みんな見にきてくれるの」
「そっか、友達多そうだもんな。陸は」
「でもマーちゃんがいちばん好きぃ」
「……」
やっぱり陸は誠くんに特別な目を向けているんじゃないだろうか。
ただそれがまだ不安定で、陸のなかで明確になっていない。
だとしたら俺はなにを教えてあげられるんだろう。
18時に退社して陸と家に帰ってきた。
亮雅さんは宴会が立て込んでいるようで20時までの勤務になっている。
陸の好きなトンカツを2人で作り、冷蔵庫に亮雅さんの分をしまった。
「ふふふーん」
「あれ? 陸、もうご飯食べたのか」
「うん! カイしゃんたち、おふろ入るっ」
両脇にぬいぐるみを抱えて風呂場へ行った陸は少しだけ身長が大きくなっている気がする。
以前はドアノブさえ扱うのが難しそうだったのに。
なんだか気になって、食事を終えると浴室をこっそり覗いた。
「きれいきれいねー」
「……ふ」
洗面器に溜めたお湯でぬいぐるみを優しく洗っている。
可愛い。心が綺麗で優しすぎて泣けてくる。
俺なんてこの歳になって、ひねくれ者もいいところだ……
「おめめ、まんまる〜。サメしゃんはキラキラしてるねぇ。いい子いい子」
あーもう……可愛すぎる。
全身の力が抜けてその場に腰を下ろした。
過保護になっても仕方ないだろ、こんなの。
しばらく陸のほのぼのとした光景を眺めながら瞑想に浸った。
亮雅さんが帰ってきたのは21時前で、陸はパンプキンを抱いて眠っていた。
「おかえりなさい。あの、冷蔵庫に夜食入ってるので……」
「……あー悪い、明日の朝に食うよ。今日は疲れた」
「あ、はい」
上着を受け取ったとき、微かに違和感を覚える。
亮雅さんのものではないツンとくる香水の匂いがした気がした。
それも既視感があって余計に混乱する。
「き、今日……会社以外で誰かに会いました?」
「いや? 会ってないけど」
「そうですか」
気のせい、だよな。
ありきたりな匂いだし、たくさんの顧客と会っていれば服につくこともあるだろう。
ふぅ、と息をついてソファに座ると同時にスマホが音を立てる。
あ……絹井さんからだ。
連絡先を交換してから、絹井さんはよく相談に乗ってくれている。
俺のような発作症状を起こす場合は、医療に携わっている立場の人から改善策などを聞くのが一番効率的だとネットで見た。
だといっても、絹井さんは俺ばかりに気をやれるほどきっと暇ではない。
もう少し自分で対処できるようにもならないと。
「椎名くん」
「っ」
翌日、職場の休憩室に向かっているとき、絹井さんに呼び止められた。
白衣は脱いでいて休憩中なのだと納得する。
休憩室は誰の姿もなく、杏仁豆腐と書かれたものを渡されて唖然とした。
「食べていいよ、たくさんあるんだ。今日は顔色がいいね」
慣れているのだろうが、絹井さんはよく褒め言葉を俺にくれる。
それが数を増すと恥ずかしくて照れてしまうが顔に出すわけにはいかない。
「いた、だきます」
「どうぞ。あ、このミニテーブル使っていいんだよ」
「ん、おいしい……」
「ふふ。本当に健気だなぁ、椎名くんは」
「え____」
頬に指が添えられて一瞬時が飛んだ。
絹井さんの顔が目先にあって途端に顔をそらす。
「へっ、あ、えと……っ」
「……松本くんはとても可愛い後輩だし、あまり困らせるようなことはしたくないんだけど。椎名くんを見ているとどうしても触れたくなってしまう」
「…………」
「でも、友人の恋人には手を出せないな。ごめんね」
「っ」
切なげに瞳を揺らす絹井さん。
その手がさりげなく腰に触れてきて、ドキッと大きく心臓が飛び跳ねた。
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