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いつも自分を責めていた。
母に怒られたときも、克彦から暴力をふるわれたときも、誰かに皮肉を言われたときも。
ずっとそれが当然で、むしろそう思っている方が楽だった。
言う通りにしていれば見捨てられない。
そうやっていつも。
「優斗」
「……はい」
「陸は迎えに行くから、今日は先に帰っていい」
最近はずっとこうだ。
亮雅さんと2人で帰っていたことが嘘のように距離ができている。
「わかりました……」
誰かと会っているのか聞きたくても、その先が怖い。
俺が我慢していればと考えては逃げている。
これではまるで変わらない。
出会った頃と、何も。
「椎名〜、今日って空いてない?」
「え?」
仕事を片付けて帰ろうとしたときだった。
浅木がフロントから顔を出すなり言ってきて、怪訝に見やる。
「なんで?」
「いや、深い理由はないんだけどさ。もし空いてるならご飯どうかなーって。おれと!」
「……あー、ごめん。夕飯作らないといけなくて」
「それ前も言ってたじゃんか〜。主任は作ってくれないの?」
「え、そんなことは……」
「思ってたけど椎名って尽くしすぎじゃね。主任はおれら同期で1日飲みに行くのもダメなの?」
「……」
それは、そうだろう。
陸はまだ小学生なんだ。
親である俺が子どもを放って遊び呆けてどうする。
「そういうのさ、正直見てて感じ悪いって。おれだから良かったけど他の人だったら敬遠されるぞー」
「……忙しいんだよ、遊んでるばかりなわけじゃないし」
「だからそれ。椎名はいつもそうだ、自分がやらなきゃってムキになって尽くすのに自分自身のことは疎かにしてる。それじゃあ結局__」
「分かったように言うなよ!」
ふり返った先で浅木が驚いた顔をする。
また大声を上げてしまった。
「俺は、形だけでも陸の親なんだ。あの子がそれで幸せならこれくらい……耐えて当然だろ」
「……」
数秒間の沈黙があった。
だが、浅木は途端に俺の手をつかんで無言で歩き始める。
「え、ちょっと……浅木、なんだよっ」
ホテルを後にして薄暗い路地を早足に歩く。
ついて行くのに必死で手を離す余裕がない俺は、口だけで抵抗する。
「待てって、どこに向かって……!」
「今日は絶対連れていく。主任が怒ったって知らないし、それで椎名に文句言うなら俺が相手する」
「……は、はぁ? なに言って」
「イヤなんだよ!」
「っ……へ」
「椎名のそういう怯えてる顔、見たくないんだって……主任にひどいことされてんじゃないかとか、ほんと毎日心配だった」
「…………」
そんなふうに映っていたのか……?
俺と、亮雅さんは。
「なんかさ、椎名つらそうなんだよ。陸のことも、主任のことも……今は我慢してるようにしか見えない。苦しいならおれにそう言ってよ。同僚だけど……友達、じゃん」
「……っ……」
浅木の手の温もりに涙があふれそうだった。
だが、寸前でこらえて向き直る。
街灯でなんとか見える顔はゆがんでいるようにも、優しく微笑んでいるようにも見えて。
「こんなとこで立ち話するより、店入ろ。ほら行くよー」
分からない。
亮雅さんとどう接したらいいのか、好きな人とどこまで距離を詰めていいのかなにも知らない。
ノンケだから近づきすぎるのも怖い。
離れてしまうのも怖い。
グシャグシャな感情が脳内を駆け巡っている。
浅木に連れられたのはこじんまりした居酒屋で、客も今の時間帯は少ないせいか閑静としている。
「フルーツバスケットください!」
「かしこまりました」
「……なんでフルーツ」
「一緒に食べよ。で? 主任はどうなの、DV?」
遠慮もなく亮雅さんを悪者扱いし始める浅木にはムッとしたが、同時に安堵する。
どうして付き合ってくれるのだろう、こんな俺に。
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