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怖さと愛情
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たまには自分を優先しろと浅木に言われた通りに帰りが遅くなってしまった。
さすがに連絡くらいした方がと思ったが、それでは変わらないと止められた。
結局、スマホは一度も触っていない。
玄関に立つだけで緊張してくる。
意を決してドアを開けると仕切りのドアがあって見えないが、曇りガラスからリビングの光が零れている。
21時……
どういう顔をすればいいのだろう。
「……ただいま」
遠慮がちに開けてみれば、ソファに腰かけていた亮雅さんがこちらをふり返った。
「ああ……おかえり」
「え、?」
「? え、ってなに」
「あ、いえ……怒られる、かと思って」
テーブルの上には、よく見れば裁縫セットが置かれていた。
陸の手提げカバンを縫っていたらしい。
いつも俺がやっていたことを、最近はなんでも亮雅さんがやっている。
どうして。
「怒る? なんでだよ。浅木から飯食いに行くって連絡きたし」
「……そ、うなんですか」
連絡するなと言って、こっそり浅木が言っていたのか。
なら初めからそう言えばよかったのに……
「……」
「……」
気まずい……
なにも話せない。
亮雅さんの前だといつも緊張する。
風呂に入ろう、と脱衣場のドアを開けたとき、「なぁ」と呼び止められた。
「は、はい」
「優斗は……俺でよかったのか?」
「へ?」
「これからずっと一緒にいて、幸せになれるのか。お前は」
「っ……」
手先が器用なはずなのに、亮雅さんの指はいくつか傷ができている。
考えごとをしていたのか集中力が持たなかったのか、俺は思わず唇をかんだ。
「考えてたんだ。優斗は俺といない方がいいんじゃねえかって」
「そんな……」
「好きだからだよ」
「ッ」
「好きだから、そう思った。俺や陸がいることで責任感じて苦しいなら別れた方がいい。俺は……優斗にそんな顔をさせたくて一緒にいるわけじゃないんだ」
「……っ」
苦痛にゆがむ顔。
俺が見たくなくてずっと避けてきた。
隠していれば捨てられない、一緒にいてくれる。
それではまるで克彦のときと同じで気持ちが悪かったんだ。
「……優斗」
「嫌われたくなかった」
「え?」
「亮雅さんと陸にだけは、嫌われたくなかった。だからできるだけ嫌なところを見せないようにって……」
「……」
「大好き、なんです……2人のことが。でも怖くて、俺のせいで2人まで保護者から悪く言われて意味わかんなくてっ」
一度口に出てしまうと止まらない。
浅木が言っていたみたいに、全部。
「俺……絹井さんに、診断してほしいって頼んだんです。もし精神的な病気だったら……ちゃんと向き合って治したくて、でも亮雅さんに言うのは怖かった……また、負担になったらど__」
腰に添えられた手が俺を強く抱いた。
肩に顔が埋まり涙がにじんでいく。
亮雅さんの手はふるえていた。
俺を壊れものでも扱うように優しく背をなでてくる。
「……亮雅、さん」
「ごめんな……ごめん。俺が絹井さんのところに行けって言ったからだよな。お前を責めるようなこと言って、本当に悪かった」
「っ」
「病気かもしれないなんて思わせて、ごめん」
「…………亮雅さんのせいじゃ、ないです」
「俺のせいだよ、今回のは本当に」
違う。そうじゃないんだ。
俺はもっと……
「逃げたくないんです、自分とちゃんと……向き合いたくて。だからこれは、俺の意思なんです……っ」
「……」
「受けても、いいですか。問診」
「優斗。俺はどんな結果だろうと優斗は優斗だと思ってる。だから結果で価値が下がることはねえし、一喜一憂する必要もない。俺から言えるのはそれだけだ」
「…………ありがとうございます」
合わせるだけのキスをして、亮雅さんの肩に顔を埋めた。
なにがあっても、この人は俺を見捨てたりしない。
そんな気がした。
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