アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
俺は自分の意思で決めたかった。
これは誰にも任せず、自分自身で向き合う必要がある。
そう思ったんだ。
「じゃあこれがチェックリストになってるから、家に帰ってゆっくり記入してきてくれるかな? ここが名前で、こっちが日付欄になってるからね」
「…………はい」
看護室で用紙をもらったとき、心臓がドキドキとした。
いい意味ではなかった。
まだなにも分からないのに押し寄せてくる不安。
誰かに責められているような恐怖。
「椎名くん」
「!」
「大丈夫、キミは強いよ。こうして向き合おうとした……意外かもしれないけど、そういう人の方が心は強いんだ」
「……は、い」
絹井さんの目が俺を見据えていた。
もうなにもかも察しているようで、自分はやっぱり"そう"なのだと片隅で覚悟した。
項目は30ほどある。
『他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安がどの程度』
そういう質問が続いている。
ファイルへ入れてカバンにしまってからも、なんだか意識が向いてしまう。
彼氏としてどうなんだろう。
本当に病気だと言われたら亮雅さんに言えるのだろうか。
少なからず亮雅さんへの負担も大きいのに。
「椎名」
「っ、あ……浅木。なに?」
「カフェラテ飲まない?」
「は」
「ロビーで」
俺の意見など聞く気のない浅木に手をにぎられ、ロビーへと向かう。
ホテルのロビーには各階に自販機があって、ジュースや酒類から紙コップタイプ、アイスまで色々と並んでいる。
自販機前のソファに座らされると浅木がぎこちない手つきで紙コップのカフェラテを買った。
「……急に、どうしたの。最近」
「いや別になんもないけど。ただ、椎名としゃべりたいっていうか」
「なんにも出せない」
「いらないし。おれのことそんなに信用できない?」
「え……なんで」
真剣な顔をしていた。
最近の浅木は別人のようだ。
いつものふざけたニヤケ顔はずっと見ていない。
「椎名……おれね、一生言わないことにしてた」
「?」
「言ったら絶対困らせるし、椎名はどうしていいか分からない顔するだろうと思ってた。だからずっと黙ってたんだけど……」
「な、なに」
「…………好き、なんだよね。椎名のこと」
「へ__」
自惚れているだけじゃないかと思ったから、驚いてないふりをした。
「そ、それって……同僚とし」
「違う。恋愛として。入社してすぐの頃からずっと好きだった、だから彼女とも別れた」
「っ……え、でも、」
声がうまく出ない。
微塵も疑っていなかった。
浅木が……俺を?
「ほらその顔。絶望した顔が見たくて言ったんじゃないから」
「ごめ……いや、ちが……」
「プッ……ちょっと落ちついてよ。別に気づかない椎名が悪いわけじゃないし。ただ吹っ切れたかっただけなんだ、ごめん」
「……」
「椎名のこと好きで、主任は何してんだって勝手にムカついてた。おれだったらもっと大事にするのにって。でもさ……主任にはやっぱり敵わないや」
目の前にいる男が、初めて本当の顔を見せてくれた気がした。
俺が隠していたように浅木も。
「主任、看護室の絹井さんに色々聞きまくってたんだってな」
「え?」
「椎名は他の人より冷たいのかと思ってたら、うまく人と付き合えないだけだったり。ちょっとしたことで不安になって怯えたり。そういうの、主任は支えになりたいんだってさ……でも自分だけじゃどうしていいか分からないから、本買ったり人に聞いたりして」
「っ……」
「なんで椎名に聞かないんだろって思ってたけど、絹井さんに相談してるの見てなんとなく納得した。やっぱり主任は椎名のことばっかだよ、言っちゃえば仕事より椎名って感じ」
いつもそうだ。
あの人は、いつも俺を困らせる。
俺には言わず陰でこんな自分を支えてくれている。
それが苦しかったのに、今はすごく嬉しい。
「ごめん……ごめん、浅木」
「……謝るなしー。言ったじゃん、友達って。おれは2人を陥れようとか思わないし、椎名が幸せなら全然」
泣きそうな顔で言われても説得力はなかった。
だが、それでもずっと友達でいてくれたのだと思うと、浅木の心の広さに気づかされる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
68 / 231