アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖必要性
-
待っていろと通話を切られて数分後、裏門の前に1台の車が止まった。
花壇の傍で座っていた俺は運転席から出てくる男の姿に泣きそうになる。
「……大丈夫か」
「ごめん、なさい……」
「謝らなくていい」
背を支えられて助手席に座る。
ドアを閉められるかと思えば乗り上げてきた亮雅さんに抱きしめられてドキッとした。
「頑張るな」
「っ」
「お前が頼ってくれるだけで俺は嬉しい。だから罪悪感なんて感じるなよ」
「は、い……」
子どもにするように頭をなでられる。
優しくて温かい。
自分の手を握って肩へと顔を埋めるとひどい安心感だった。
「亮雅さんっ……」
「やっぱり、今度からは俺が行くよ。今日は早上がりだからよかった。優斗にそんな顔させたくはねえ」
「……」
「しばらくの間は俺に行かせてくれ。それから落ちついた頃に何があったか話せ、絶対だぞ」
「わかり……ました」
「偉い偉い」
気遣って言ってるようには見えなかった。
亮雅さんは本心から俺を迷惑だと思っていないのではないかと安堵する。
合わせるだけのキスをして運転席へと戻っていく。
もしも神様が本当にいるのなら少しだけ信じてみたい。俺は見捨てられてないと。
「……水族館でも行くか」
「え?」
「ジッと家ん中にこもっても落ち着かないだろ。シートベルト」
「あ、はい……」
水族館……
それってなんだか、デートみたいだ。
いや付き合ってるのに今さら?
「嫌か?」
「いえ……行きたい、です」
「そう」
「すみません」
俺の謝罪言葉に亮雅さんは茫然とこちらを見やる。
「お前さ、たまに話し噛み合わないよなぁ。何に対する詫びなんだ」
「それ、は」
「どうせ"こんな自分ですいません"とでも思ってんだろ。んなこと誰も言わねえのに」
「……」
また謝りそうになって口を噤むと、車を発進させると同時にさりげなく手を握られてドキドキしてきた。
熱い体温。いつか本当に優しさで殺されそうだ。
亮雅さんの優しさは見かけ騙しや上辺だけのものではない。
きっとそうだと信じたいほどに温かい手をしているから。
「着いたぞ」
「ん……」
肩をさすられて目が覚めた。
100台近くの車が置けそうな広い駐車場の先にデカデカと『三橋水族館』の看板。
上野の水族館ではなく、大人のデートスポットとなっているところに来たらしい。
「子連れが少ない方がいいだろ。デートだし」
「はい」
子連れ……
俺に連想させないようにここを選んでくれたのだろうか。それは考えすぎか。
本当にそうだとしたら亮雅さんの洞察力や思いやりは半端じゃない。
「手」
「へ?」
「俺が一緒にいても無理か?」
「あ……」
逆に聞きたい。
どうしてそんなに躊躇いもなく男前なことができるんだろう。
怖くて仕方ないのはたぶん俺だけだ。
亮雅さんには怖いという概念がないのだろうか。
「ねえ見て……あの2人、男の人だよね」
「っ」
入口付近で案の定と思って手を離そうとしたが、亮雅さんの力に敵わない。
「見るなよエリカ」
「でも2人ともすっごくイケメンじゃない? やばぁ」
「こら」
貶されるよりマシだが、興味本位に見られるのもあまり好きではない。
苦いものを噛んだような顔をしていると亮雅さんに引かれて奥へと進む。
アーチ状の水槽が青い照明や無数の魚で幻想的な海の様子を再現している。
奥に進むほど足下が薄暗くなっていて、なんだか遊園地の既視感がした。
「……綺麗ですね」
「手、なんで震えてんの?」
「えっ、あ、いや。ちょっと……暗いなって」
「暗所もいけないんだっけ」
「違います、けど。なんていうか、ゾンビの……デジャヴが」
「はぁ? ……ぶふっ、いや意味分かんねえ。優斗の脳みそは被害妄想だけでできてんのか」
「ッ」
笑いながら腰を抱き寄せてくる紳士さに心臓が止まりかける。
跳ね返したいのに、できない。
もっとくっついていたくて自ら亮雅さんの肩に寄せていく。
俺の心臓は今にでも壊れそうで、いっそ壊れてくれたらいいのにと切実に思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
76 / 231