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亮雅さんの手を握って歩くのは至極恥ずかしいと同時に快感だった。
人前で堂々としていられず、ずっと逃げてきた手をつなぐ行為。
普通の異性カップルなら当然のことなのに、例を見ないという理由で他人の目線が気になってしまう。
それが今は大切に握られている。
「陸は今日、婆さんのところに泊まるから2人で夕飯決めるぞ」
「……」
「優斗?」
「あっ、え? なんですか」
「まだ気にしてんのか。いいだろ、男同士でも」
「違います。なんかちょっと、嬉しいっていうか……こんなふうに手を繋ぐのって憧れがあって」
恐らく俺の顔は赤く染まっているだろう。
指先から痺れて変な感覚がする。
幸せなのに怖い。
やっぱり俺は幸福という文字に慣れないらしい。
「素直なとこもあんだな」
「っ! 俺はいつも素直です」
「嘘つけ。その赤い顔はなんだ」
「……中、暑いだけです」
「ブフッ」
隣でケラケラ笑っている亮雅さんの足を蹴ろうか迷ったが、大型の水槽にエイの笑顔が見えて気まずさでやめた。
雰囲気作りのためなのか水槽付近や足下を確認するための小さな照明のみが視界にちらつく。
さりげなく手を繋いでいても見えるはずがない。
「あつ、い」
「もう夏だからな」
そうじゃない。
繋がれた手から伝わる熱は、気温による暑さを超えている。
人の感情はこれほどまでに体へ影響を与えるのだと知った。
「…………ずっと、このままがいいです」
ついに口から出てしまった。
あ、と思ったときにはもう遅くて、握る手に少し力が入る。
「い、いまのは嘘__」
言いかけた口を塞がれたのはほんの一瞬だった。
俺にとっては長い時間そうしていたのだと錯覚するほどの余韻を残される。
瞬間、ぶわっと顔が沸騰したように熱を帯びていく。
「ギャップ殺しの天才だな……優斗は」
「は、え?」
「行くぞ、あっち」
近くにいたカップルに見られた気がして顔を上げられなかった。
ドクンドクンと鳴っている心臓は張り詰めていて息苦しい。
ずっと普通にしてみたかったことを、亮雅さんはいとも簡単にやってしまう。
もう隣にいるだけで生きている心地がしてきた。
でも俺はたぶん、克服できていない。
一番大切なはずのこの男にさえ作っている壁。
それを壊さなければ恐らくずっと……
「____たまには水族館ってのもいいな」
お土産売り場で丸い体型をしたサメのクッションを買った。
亮雅さんになにも言わずこっそりと買ってしまったが、後々考えてみれば言い出しづらい。
自分用とか……いい歳して恥ずかし。
助手席に座ると余計に後悔する。
先に言っていた方がよかったんじゃないのか? 家に帰ってなんて説明したらいいんだ。
この流れだと陸に渡すしかないじゃないか。
うわあぁぁ……俺のバカ。
「り、亮雅さんはなにを買いました? 自分に、とか」
「ん? 俺はカメの形したクッションだよ。デザイン可愛かったし、ソファにいいと思ってな」
「え」
あまりにも自然に言うから絶句した。
しかも亮雅さんが見せてくれたカメのクッションは思っていた以上に可愛い。
つぶらな瞳に丸い体。
思わず吹き出しそうなほどチョイスが可愛すぎる。
「マジですか……」
「お前は?」
「お、俺は……その」
「エロ本買ったような反応だな」
「! んなわけないじゃないですか! そんなもの買いませんっ」
「なのに言いづらいの」
「……いや、サメのクッション、を」
ほとんど同じものを買っているのに、亮雅さんはよくて俺はダメな気がしてくる。
陽気な亮雅さんと違って俺は根暗で陰気なイメージしかないし、会社でも近寄りがたいと言われたほどだ。
そんな俺が……
「へー」
「もう殺してくださいっ、今すぐ」
「ははは、大げさだなぁ。相変わらず」
ただの恥さらしじゃないか……っ
「俺からしてみれば、その方が可愛くていい。お前には一生ぬいぐるみを抱いててほしいくらいだ」
「へ、変態ですか」
「そう褒めんなって」
「褒めてません」
「まぁ、知ってたけどな」
「……は?」
「お前が愛おしげにクッション眺めてる顔、見たし。盗撮しようとしたけどやめた」
「…………」
神様、罪人はこいつです。
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