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❖答えの先に
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小学1年生の春、新入生の入学式。
俺は母と手を繋いで写真を撮った。
『優くん、入学おめでとう。たくさん楽しい経験するのよ』
『うん!』
『お母さん、泣いちゃうわぁ。感動しちゃって。優くんが友達とはしゃいでるところ、たっくさん見せてね』
『うん。見せるのはちょっとはずかしいけど、いっぱい友だちつくりたい』
照れながら言った。
幼稚園の頃から俺は人見知りをしていて友達を作るのが下手だ。
だから母は俺が小学生になると泣いていた。
苦しみなのか嬉しさなのか、泣いている母に釣られて俺も泣く。
でも結局、誰とも友達や親友と呼べるほどの深い関係にはなれなかった。
母は泣いた。自分の育て方が悪かったのかと。
違うのに。
俺は精一杯、友達を作ろうと努力をしたのに。
いつも胸にはその思いがあって、母に認めてほしいと思っていた。
失敗作だと言わないで。
俺は失敗作なんかじゃない。
ずっとそれを言いたかった。
できない俺でも愛してほしかっただけなんだ。
また、あの頃みたいに泣いて____
「……しゃん」
あれ、声が聞こえる。
なんだ……生きてるのか、俺。
というか車にぶつかった記憶もない。
「ゆーしゃんのめめ、ドーナツなりましたぁ。ててはじゃがいも」
陸の声……?
ゆっくりとまぶたが開いて、手に触れるなにかの感触が鮮明になってくる。
真っ白な天井。カーテン。
仕切られた狭い空間。
ふと視線を下げると丸イスに座った陸が俺の手を掴んで遊んでいた。
「おいしぃポテチ〜」
「陸……?」
「! ゆしゃ」
陸は俺を見るなり、突然泣き始める。
驚きすぎて起き上がろうとしたが、全身のムチ打ちに悲痛の声が盛れた。
「痛って……ッ」
「うわあぁぁあぁ、ゆしゃあぁあんっ」
「ま、待った……泣かないでって、陸。ケガ、してない?」
「っ……してないぃぃ」
「よかったぁっ……本当に」
泣きながらベッドに乗り上げてくる。
痛みで顔がゆがむが、見たところ陸が無傷なことに喜びを隠せない。
「ゆしゃぁぁっ……いたいいたいする?」
「……ふ、大丈夫。陸の顔見たら元気でたよ」
「くるまのおと、こわかった……っ」
「怖かったな……陸、猫助けようとしたんだ」
こくりと頷く陸は可愛い以外の言葉が出ない。
偉い、と頭をなでたときだった。
ノックの後に勢いよく開けられたドア。
「優斗、陸!」と叫ぶような声が聞こえて心臓が跳ね上がる。
「りょしゃんっ!」
陸がカーテンを開けて亮雅さんの姿が視界に映る。
その後ろには谷口さんがいて、目が合うと安堵したように肩を下ろした。
「ッ……大丈夫なのか、怪我は!? 陸もお前……」
ひどく焦りを見せる亮雅さんに涙が堪えきれなかった。
なにも口から出ずに俯けば、陸と一緒に強く抱きしめられる。
「無事でよかった……っ、本当によかった」
「亮雅……さん、っ」
桜田の話を聞いてしまったせいもある。
大人ぶることもできずに肩へ顔を埋めた。
「ありがと……ございます……」
自分が生きていること、陸が生きていること、何もかもが嬉しいものに思えた。
分かっていなかった。
俺自身を必要とし、こんなにも大切に思ってくれている人の存在を。
「陸坊、売店で好きなもの買ってやるぞ。おいで」
「アイスたべる……っ!」
陸を抱き上げて谷口さんが出ていくと、余計に感極まりそうになった。
「亮雅さん……」
「……悪い、気が動転した」
え……? 泣いてる、?
亮雅さんがさりげなく涙を拭ってクシャクシャと俺の頭をなでる。
それに唖然としていれば、「あんまり見るな」と目線を塞がれた。
「あっ、あの……俺」
「なにも言わないでくれ。分かってる……優斗がどれだけ必死で努力してんのか、本当は分かってんだよ……」
「……」
「分かってたのに俺はお前に八つ当たりした……すまない」
「そ……」
そんなこと、分かってます。
亮雅さんが誰よりも優しい人間だってこと、俺が知らないでどうする。
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