アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
「……どこが痛いのか教えてくれ。アザができたのは手首だけか? 頬は? 足は痛くないか」
見たこともない焦りように思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。
「笑いごとじゃないだろっ」
「すみません、つい……痛いのは全身ですけど、打ち付けたアザはたぶん手と足だけです。車に接触したわけではなかったみたいで、この頬は摩擦で傷ができたんだと」
「……本当にか?」
「嘘なんてつきません」
「…………分かった、信じるよ」
苦い顔をした亮雅さんに簡単なキスをされた。
それだけでドキドキしてわざとらしくベッドに凭れる。
「陸が元気そうで、なによりです」
「馬鹿、お前だって大事なんだよ。軽傷で済んでよかった、でも腹は立ってる」
「……ふふ、亮雅さんってそんなこと言うんですね」
「そんなことってなんだ。当たり前だろ、運転手がスマホ触ってたって聞いてマジで殴ろうかと思っ」
「やめてください! ぼ、暴力は反対です!」
「……やらねえよ」
俺の手をそっと取ると優しく指を絡めてきた。
嬉しくてまた泣きそうで苦しい。
「好き……なんです」
「!」
「亮雅さんが好きで、かっこよくて、俺にとっての希望の星みたいな人なんです……だから、誰よりも離れるのが怖い。どうやって甘えたらいいのかも分からなくて、結局いつも言えなくて」
「……優斗」
「笑顔の練習もしました。でもできなかった。人前がどうしても怖い、それに亮雅さんに素を見せたら嫌われるかもって……変な被害妄想が止まらないんです」
ひどく顔をゆがめる亮雅さんが後悔をにじませ、とっさに謝ろうとした。
だがギュッと手を握られて言葉が出なくなる。
「……傷つきたくなかったのは俺の方だ。優斗は誰よりも頑張ってきた、だからムカついた……なにもできないことが嫌なんだよ」
頼ってほしい。
それが亮雅さんの本音。
俺1人で抱えなくていい、そう言ってくれているのだと気づいた。
「ごめん、なさい」
「自分を追い詰めないでくれ。優斗が自然体でいられるだけでも俺は幸せだ、ずっとお前の笑顔が見たくて必死だった。……本当に、ガキなのは俺だよ」
「…………亮雅さん」
「なに目を潤つかせてんの、可愛いな……くそ」
「だって……だって、」
「分かったよ。すげえ怖かっただろ、陸を守ってくれてありがとな」
「っ……」
目頭に溜まった涙を指で拭われる。
亮雅さんの笑顔に胸が締め付けられて、深く息をつく。
戻ってこれたと安堵できる場所があるじゃないか。俺は幸せ者だ、誰よりも。
看護師に怪我の状態を診てもらい、今日の午後には退院できることになった。
強く打った腿が痛くて立ち上がるときには苦労するが、歩けないこともなかった。
「ゆしゃん、だいじょぶ?」
「うん、ありがと」
「ゼリーあるの。ゆしゃんあげる」
陸より小さい冷蔵庫の中からゼリーを取り出して俺にくれた。
ぽんと頭をなでたら、また泣きそうな顔をする。
「陸のせいじゃないからな」
「優斗、調子はどうだ」
「あ、全然大丈夫みたいです」
「他人事みたいな言い方だな……」
「いや、その……大丈夫ですって言ったら、また我慢してると思わせるかなって」
「……思わないから安心しろ。隠してたら俺が怒るだけだ」
「……」
亮雅さんに怒られるのは怖い。怖すぎる。
「仲直りできてよかったな、2人とも」
満足げな顔で丸イスに腰かけたのは谷口さんだ。
やっぱり気づかれていたらしい。
途端に恥ずかしくなって顔をそらした。
「やっさん、いつも悪いな」
「やめろよ気持ち悪い。素直なマッツンは不気味だ」
「なんでだよ」
「ボク、ニホンゴワカリマセ〜ン」
睨み合う2人は相変わらずでホッとした。
俺が難しく考えているだけで、やっぱり亮雅さんには変わらない優しさがある。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 231