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14時過ぎに手続きを済ませて退院した。
幸いなことに陸も手のすり傷だけで済んだようで傷口も塞がっていた。
家に帰ってくると反動で一気に力が抜けてソファに座り込んだ。
「やしゃん、だっこー」
「はは、しょうがねえなぁ〜」
「……優斗、大丈夫か」
ソファに置いていたサメのクッションを抱き上げる。
足や腕は痛むものの、気持ちは落ち着いていた。
「心配性ですね……亮雅さん」
「そりゃあそうだろ。どんだけ骨を折ったと思ってんの」
「驚かせて、すいません」
「…………まぁいいんだけど。可愛いな、お前」
「な……いきなりなんですか」
ため息をつかれて愕然とする。
俺がなにをしたと??
「それ気に入ってんの」
「どれが……」
「サメ」
「っ……こ、これは、触り心地がいいってだけです。本当に」
「とか言って結構可愛いもん好きだろ? いつも欲しそうな顔してんぞ」
「……男なのに、そんなことありません」
本当はちょっと好きだ。
でも俺にもプライドというものがある。
亮雅さんは笑うかもしれないけれど。
「このツンデレめ」
「痛たっ」
「別にいいじゃねーか、男が可愛いもん好きでも。俺だって好きだぞ? まぁ、素直じゃねえのも可愛いけど」
「…………」
そりゃあ俺だって、今すぐこのクッションを抱きしめて頬を擦り付けたい。
でも体のどこかに制御がかかってしまうんだ。
俺がそんなことをしたら間違いなく引かれる、そう確信しているんだから。
「おお、できたな。ねるねるの完成だ」
「できましたぁ、ぱちぱち」
「なんだそれ?」
「練って作る菓子だ。陸坊は菓子魔人だからよ」
「おかしかしっ」
「なんかすげえ色してんな……」
「菓子だからな。色なんてつけ放題だろ」
3人が盛り上がっている中、横目に見てぼふっとクッションに顔を埋めた。
泣きすぎだ。目が痛いし眠い。
立ち上がろうにもまだ人の手がいる。
ソファで寝るか。いや、それはやめとこう。
「亮雅、さん」
「ん? どうした」
「眠いので……ベッドに行きたくて」
手を貸してください。
そう言いかけてビクッと肩が跳ねた。
亮雅さんに抱き上げられたからだ。
「ッ」
「相変わらず軽っ、谷口ー悪いけど陸を見ててくれ」
「おう、任せろ」
あまりの不意打ちに焦りを覚え、亮雅さんの腕を握った。
「あ、の、えっ、は……」
「落ち着けよ。ベッドに行きたいって言ったろ」
こんなときにドキドキしてしまう自分が憎い。
脚も手もムチ打ちで痛むのに、やっぱり俺は男なんだと思い知らされる。
ベッドに降ろされたと同時、サメのクッションを奪い取られて「やっ」と反射的に手を伸ばしてしまった。
「っ……」
「ぷっ、ほしいか?」
「…………べ、別に」
「ははは、素直じゃねえ〜。いいよ。ほら」
「……」
腕のなかにぬいぐるみクッションが返ってきた。
抱き枕にもできるし、ぬいぐるみとして置いておくこともできる。
なんて万能なアイテムなんだろう。
「やっぱ、好きだわ。お前のこと」
「ッ」
「陸より子どもっぽいけどな」
「い、やです……ちゃんと大人らしくしますっ」
「バーカ、誰もそれが駄目だとは言ってないだろ? そういや、11ぐらいで入るか? 優斗は細せえもんな」
なんの話をしているのか分からなかった。
服のことか?
いや、だとしたら前置きがなさすぎる。
ぽかんとしていると、アザのない方の薬指をそっとなでられた。
「ここ」
「…………っ!」
「やっと気づいた。ペアリング案出したのお前だってな」
ぶわ、と涙が溢れ出す。
亮雅さんの言葉に一喜一憂して、情緒不安定で、どれだけ困らせるのだろう。
でもこれは亮雅さんが悪い。
不意打ちでそんなことを言ってくるからだ。
「おいおい、泣くなよ。……1人で頑張らなくていいんだぞ」
「う、んっ……」
「ふ、飯作ってくる。今はゆっくり休んでろ」
額に降りてきたキスにオアシスのような神聖さを感じ、サメをギュッと抱きしめた。
自分は必要とされている。
大切にされている。
死のうとしなくたっていいんだ。
誰よりも愛してくれる人がいるんだから。
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