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だが翌日、家を出たはずの陸が学校に来ていないと連絡がきた。
担任から誠くんはまた休みだと聞いて愕然とする。
どうして陸が……?
「あ、あのッ、本当にどこにもいませんか? 校舎裏とか駐輪場とか、どこかに隠れていないですか!」
『……分かりました、こちらで付近を探します』
「お願い、します」
亮雅さんは朝に仕事へ出た。
おそらく今は会議中だ。
どうしよう、警察に届けるべき案件だったら。
俺が送っていけばこんなことには……
だが、そう考えるのはまだ早いと唇をかんで家を飛び出した。
陸の靴袋は縫い直して持って出ている。
やっぱり学校へ行くのが怖かったんだろう。
バカか俺は、まだ小学生の陸が嫌がらせに耐えられるはずがないのに。
都内の住宅街は平日でも人が多く、陸ほどの小さい子どももたくさんいる。
猫が通りそうな家宅の隙間を覗いたり人気の少ない裏路地で陸の名前を呼んでひたすら探した。
通行人に異質な目を向けられたが気にしている余裕もない。
「陸っ……本当にどこにいるんだよ……っ」
慣れない走行に息が切れてわき腹が痛む。
陸の泣き顔を思い出すたびに俺が泣いてしまいそうだった。
あの子になにかあったら俺は…………
血縁の親でもなければ、女でもない存在の俺を陸は一緒にいたいと言ってくれる。
意味が分かっていないのだとしても、その言葉に救われたのは事実だ。
「無事でいてくれ……陸……ッ」
胸の奥で感じるひどい律動にムチを打って駆け回った。
商店街、ネオン街、高架下や学校裏などをくまなく探し、1時間と経っても陸は見つけられなかった。
動悸と吐き気がするなかでスマホを取り出すと、110と打ち込む。
「っ……」
亮雅さんにも電話しなければ。
誠くんの自宅は何番だろう。
俺はひどい父親だ。子どもが寂しいときに気づいてやれなかった。
俺のせいで____
「陸くんっ、あぶないよ」
____え?
偶然か幻聴だろうか。
河川敷の方から聞こえてきた声が聞き覚えのあるものだった。
川沿いの道に立ち尽くしていた俺はそんなはずないと思いながら声のした方を見やる。
「マーちゃん、ててはなしちゃダメっ」
「だいじょうぶ。絶対ボクがいっしょにいるから」
「ッ……」
崩れ落ちそうだった。
川底に埋められた岩に飛び乗ろうとしている陸と誠くんの姿が視界に飛び込んでくる。
休みじゃなかったのか……?
どうして2人が一緒にいるんだよ。
陸が、どうして。
絶望を感じていた俺の心が安堵から怒りに変わり、芝生の坂を下った。
「コラッ」
「っ!!」
滅多にあげたことのない怒声に2人はビクッと肩を震わせ、陸を守るように誠くんがこちらを振り返った。
陸が「ゆしゃん……っ」とか弱い声を出すから怯みかけたが、今日ばかりは我慢できなかった。
「っ……ゆうと、さん」
「誠くん、今日学校に休みだって連絡してるんじゃないのか? なんでここにいるんだ、母さんたちが心配するだろ」
「……ボクの家、へやがはなれてるからお母さんはボクが出てきたって知りません。それに陸くんが学校に行きたくないってボクのところにきたんです。だからふたりで逃げました」
「え……陸が、誠くんのところに?」
陸は誠くんの腕にしがみつくようにして泣き顔を隠した。
ショックだったのは、それを陸が俺に言ってくれなかったことだ。
まだ父親として信用されていない、そう感じて再び絶望を感じる。
「陸の気持ちを汲み取らなかった俺にも責任はある。だけど誠くん、陸は1人じゃないんだよ。陸を大切に思っている家族がいる……だから逃げ出すなんてこと小学生の2人にはさせられない」
「…………でもゆうとさんは、陸のほんとうのお父さんじゃないんですよね」
「っ」
その一言に、陸の肩がピクリと動いた気がした。
知られたくなかった。
言わなければいけなかった。
嫌われたくなかった。
逃げてばかりいたのは、俺の方じゃないか……っ
「違うよ。俺と陸は血の繋がりがない。"お父さん"だって名前だけのものだ」
「……」
「でも、だから俺は陸をもっと大切にしたいんだよ。本当の家族になれない辛さだって痛いくらい知ってる。ずっと辛かったから、今度はそれに負けないくらいの愛情をあげたいって思えるんだよ」
「……っ……」
「キミならその気持ち、分かってくれるよね?」
陸の手を握って離さない誠くんにそっと微笑みかける。
そのときずっと肩に顔を隠していた陸が泣きながらこちらに駆け寄ってきた。
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