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「ゆしゃん、マーちゃんおこらないでっ……」
「陸……」
「マーちゃんは、陸がゆしゃんにめいわくかけたくない……いったからここ来たのっ」
俺のズボンを必死に掴んで言う陸。
迷惑かけたくない……?
なんで、そうなるんだ。
「なにが、迷惑なんだ?」
「……ボクが、がっこ行きたくないっていったら、ゆしゃん困るから……いえ、なかった」
「なんで……そんな、気遣うんだよ。言っていいんだよ? そのための親なんだから」
「だって、ゆしゃもりょしゃんも……おしごと、がんばってる……のに」
ヒクッとしゃくりあげる陸に耐えきれなくなって強く抱きしめた。
その手にはしっかりと靴袋が握られていて、どうしようもなく愛おしくなる。
「ずっと見ててくれたもんな……陸は、っ」
「ううぅぅ……」
「ごめんな……そんなことお前に思わせて、ごめん」
クシャクシャに頭をなでてやると誠くんまで泣きそうな顔をして自分の服を握った。
「陸を守ってくれてありがとう」と笑いかければ、誠くんはボロボロと涙を零して抱きついてくる。
もう事故で負ったムチ打ちの痛みも消えていた。
俺にも人を守ることはできる。
大切な家族を抱きしめることはできる。
それが何よりもの生きがいなんだと、改めて思い知った。
「____本当に、すいませんでした」
昼休憩でメッセージの確認をした亮雅さんが飛ぶように帰ってきて、ひどく叱られると覚悟していたが強引に頭をなでられて唖然とした。
「……え」
「誠は正真正銘の男だな、陸」
「うんっ、マーちゃんやさしかった……」
「でも優斗が必死になってお前を探さなきゃいけなかったんだ。逃げたい気持ちは分からなくもねえけど、学校休んで誠と遊びたいなら今度から俺か優斗に言え。いいな?」
「ごめんなさい」
意外な対応に呆然としている俺はお構いなしに亮雅さんは陸に「ケーキ食っていいぞ」と冷蔵庫を示した。
「…………学校休み、絶対許さない人だと思ってました」
「は? なんでだよ。別に学校だけが陸の人生じゃねえだろ、本当に逃げたいときは逃げたらいい。お前だってそうだぞ」
「へ……」
「仕事はバカ真面目にしなければいけないなんてただの思い込みだ。好きなことだけ死ぬほど全力でやれ。どうしても逃げたくなったときは、俺のところに逃げてこい」
「……」
抱きしめられると途端に子どものように泣いてしまいそうになる。
ありがとな、と耳許で囁かれて肩に顔を埋めた。
いつもいつも亮雅さんの言葉や温もりに泣かされる。
ずっと苦しくて泣いていた俺にも、幸せで涙が出ることを教えてくれた。
バカみたいな家族愛だ。
「陸……本当に可愛いんですよ。俺と亮雅さんが仕事頑張ってるって、まだ小学生なのに」
「お前の真っ直ぐな思いが陸に届いたんだよ。子どもは親をよく見てるからな」
「……でも俺、逃げてばっかりで」
「急に弱気だな。そういう弱いところすら俺は可愛いって思うのによ」
「っ」
一瞬だけ重ねられた唇に蕩けそうだった。
胸が熱くなり、わざとらしく目線を滑らせる。
「ケーキおいしい!」
「まだ食べてないじゃないか」
「いっぱいたべるの〜」
亮雅さんに頭をなでられて嬉しかったようだ。
イスに座るとふらふらと足を揺らしてケーキを頬張る。
「……ごめんな、陸」
「?」
「ううん、なんでもないよ」
「ゆしゃもたべる??」
「ふ、大丈夫」
陸が泣き疲れた反動で眠った後、靴袋を縫い直した。
正しくは鳥を追加した。
3羽の鳥がちょこんと並んでいる画。
ソファで陸を抱いて寝ている亮雅さんに口許が緩み、頬にそっとキスをする。
2人が眠っている間に学校へ向かい職員室に顔を覗かせると、担任の松田先生が来てくれた。
「椎名さん、こんにちは。陸くん見つかってよかったです」
「いえ、こちらこそ探していただいてありがとうございます。それで松田先生……少し込み入ったご相談があるのですが」
「ご相談、ですか? では立ち話もなんですし、移動しましょう」
厭味のない笑顔で応えてくれた松田先生は、学級通信で30代だと知った。
子どもが好きそうな先生だ。
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