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空き教室に案内され、イスに腰かける。
6年生用の背が高いイスでも俺には小さく思えて口許が緩んだ。
「前にお話したとおり、陸は少しだけ言葉を話すのがぎこちない子です。でも人に優しくて、誰よりも努力しようと幼いながらに頑張ってます」
「……ええ、陸くんの真面目なところや他の子に思いやりを持って接しているところは、僕も大変感心しました。それにクラブにも熱心で友達が多いので、いつも楽しそうですよ」
胸がチクリと痛む。
陸は精一杯頑張っているのに、友達も多いのに、あんなに大切なものをグシャグシャにされたんだ。
「…………」
「椎名さん?」
「……先生。実は陸が、クラスの子にいじめられたんです。それも前兆はなく急にでした」
「え?」
陸から聞いた経緯を話すと、松田先生は真っ先に頭を下げてきた。
やめてくださいと説得して持ち直し、思い当たる原因を話した。
男性同士の同棲、それをすでに知っている先生は偏見を持つことなく向き合ってくれている。
だから話しやすかった。
「つまり……椎名さん達の家庭環境を口外した保護者がいると、いうことですね」
「はい……」
先生は肩を落として落胆したが、覚悟はあったようだ。
すぐに表情を切り替えて俺を見やる。
「小学生のお子さんは、言っていいことと悪いことの区別もまだ未熟で指導が難しいです。ですが、それを知ったうえで子どもに漏らしたということは……愉快犯かもしれませんね」
「……」
「僕のクラスでは能力有無に関わらず子ども達が尊重し合える環境をつくりたいと思っています。PTA役員の方ともそのような話で進んでいるので、黙ってはいられませんね」
「複雑なんですけど……受け入れてくださってありがとうございます」
「いえ、まだ随分とお若いでしょうにとても素晴らしいですよ」
年上に敬語を使われるのはなんだか緊張する。
先生だから当然だが、こんなに若く見えても俺とは10も違うと思うと心臓がドキドキしてくる。
でも、ここでビビってはなにも始まらないだろ。
「____あ、先生ここにいらしたんですね。よかった、見つかって」
廊下から聞こえた声にゾクッと鳥肌が立つ。
入ってきたのは井口さんだった。
俺の目の前で、他の保護者にゲイを口外した女だ。
相手もこちらに気づいたようで、一瞬眉をひそめた気がする。
「あ、井口さん。もしかして学級通信ですか?」
「ええ、やっと書けたんですよ。来月のクラステーマは、"みんなが輪を作って仲良く"でどうでしょう」
……なにが輪を作るだ。
なにが仲良くだ。
陸を散々貶してきたのはあんただろ。
「ありがとうございます。あ、椎名さん……例の件、井口さんにもお話して大丈夫ですか?」
「え?」
「井口さんはPTAの学級委員長なので、椎名さんさえよければ」
心臓が鷲掴みされるような感覚だった。
だが、俺に非があるわけじゃない。
頷いてみせると、先生は安堵したような表情を浮かべる。
「なんなんですか? 先生」
「井口さん、実は保護者の方に他人の家庭事情を子どもへ口外している人がいるようで。僕のクラスの生徒が嫌がらせを受けたようです」
「っ……へ、へえ。それは怖いですね」
「いじめを受けた子はうちのクラスでも人気者でした。そんな子が突然、いじめの標的になるとは思えません」
「……本当にいじめなんですか? ただのじゃれ合いとかじゃあ」
どこまで白を切るつもりなんだろう。
怒りを通り越して呆れてきた。
今の反応で確信したが、子どもに言いふらしたのは井口さんだ。
俺を目の敵にしているのだから動機も言い訳できないだろう。
「靴袋をカッターやはさみで切られたようです。マジックで面白おかしくその子への中傷をした……それがじゃれ合いと思いますか」
「……」
女が黙り込んだとき、廊下からふいっと男の子が顔を覗かせた。
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