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❖たぐり寄せ
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「ただいま」
家に帰ってくると、廊下で寝転んでいた陸がビクッと肩を跳ねさせる。
絵を描いていたらしい。
ちょこんと座り直して「おかえりっ」と両手を差し出してくる。
「なにー? 抱っこ?」
「ゆうしゃんとギュってする」
「なんだそれ。亮雅さんは?」
「おへや」
靴を脱いで陸の元へ行くと、描いていたのはまた俺たちの絵だった。
今日は3人でキャンプをしている絵だ。
テントがあって、その横に俺たちが並んでいる。
「陸、キャンプ行きたいのか?」
「キャンプ?」
「これ、テントだろ?」
「うん! マーちゃんがおしえてくれたの。ここでね、ねんねしたりごはん食べるって」
「そっか。じゃあ次はキャンプに行こうか」
今日のことをどう話そうか少し考えて、陸の隣にあぐらをかいて座った。
「陸、学校のことなんだけどな」
「……」
「翔太くん、陸に謝りたいんだって」
「しょーくん?」
「うん。陸のこと傷つけてしまったから、ちゃんと明日謝りたいって。だから学校に来てほしいって言ってたよ」
翔太くんは愉快犯ではなかったようで、俺にもホモの人と言ったことを謝ってきた。
母の言葉が本当のように聞こえるのは子どもならよくあることだ。
陸は瞳を潤ませると、こくりと頷く。
「もうこわいことない?」
「ないよ。先生がしっかり見ていてくれるし、もし何かあったらそのときは絶対教えてくれ。隠しちゃダメだからな?」
「ゆしゃん、いう」
「そう、偉い偉い。怖いことは我慢しなくていいんだよ、陸」
嬉しかったのか、俺の腕に抱きついて顔を埋めてくる。
昔の俺も、きっとこうして縋りつける人がいてほしかったんだろう。
だから克彦の温もりが快感だった。
本当に悪いことをした気分だ。
「ゆしゃのてては〜りんごあじぃ。あむあむ」
「ふふ、陸の考えは変なものが多いな」
「ん〜」
「頑張ってくれてありがとな。陸が楽しそうにしてると……俺も幸せだよ」
「……」
俺の指を咥えたまま、陸は瞬きをした。
意味を分かっていないふりなのか照れ隠しかは分からないが、愛おしさに変わりはない。
「勝手に出て行ったりどこかへ遊びに行ったりするのは、せめて中学生になってからな。今のうちは俺や亮雅さんを頼って」
「うん。マーちゃんともあそんでいい?」
「いいよ、もちろん。誠くんと陸は将来ずっと仲良くしてそうだよな」
「マーちゃんはねえ、陸がおとななって"おとしゃん"になるっていったら、えらいねってしてくれた」
不器用すぎる陸だが、本当に可愛くて仕方ない。
俺が誠くんだったら同じことをしていたと思う。
できることなら陸の相手は誠くんであってほしい、なんだか照れくさいけど。
「陸はえらいよ。でも、なにもしなくても陸は陸だから、今の優しいままでいてくれたらいい」
そっと頭をなでたとき、リビングのドアが開いて亮雅さんが顔を覗かせた。
「ん? こんなとこにいたのか、なにしてんの」
「りょしゃぁ。キャンプ、いきたいっ」
「おいおい、なんだいきなり。こら暴れるなー」
亮雅さんに抱えられて陸はキャッキャはしゃいでいる。
初めて家族らしいことができた。
陸のために、俺にもできることがあったんだ。
これくらいは親として当然なのに、亮雅さんに頭をなでられたいと意味不明な欲が湧いた。
「どうした優斗、なんか言いたげだな」
「ッ……あ、いや。陸の担任に話して、犯人見つかりました……それと、陸をいじめた子も反省してました」
あったことだけ話せばいい。
別に余計なことは言わなくても。
そう思っていたのに。
「そうか、ありがとう」
「っ」
まるで俺の心を読んでいるように頭をなでられ、みるみると顔が熱くなっていく。
別に期待してないですと言いたげな顔をするしかなくて、嬉しさに目元がじわりと潤んだ。
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