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❖作戦
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絹井さんからもらったTo doリストを手に今日の目標を最低レベルで設定して考えてみた。
疾患を持つ人には共通点があって、大半が完璧主義か責任感を持ちすぎる傾向にある。
……目標、目標。
目標ってなんだ?
朝起きれたことでも自分を誇っていいのだと言われたが、それだけで自信過剰になるのはどうなんだと卑下してしまう。
そのとき、スマホが鳴り出した。
着信先は俊太でなにげなく通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『優斗ちゃーん、おはよう』
うっかりしていて通話を切った。
ああ、手が滑った。いけないいけない。
また着信があって、眉を寄せて応える。
「あー悪い、手が滑って」
『絶対わざとじゃん。優斗ってドSだよね? 絶対そうだよね?』
「本当に滑ったんだよ。ダメだ、うっかりしてたー」
『棒読みやめろ。それよか、ジョギングしねえ?』
「は? 誘う相手、間違えてないか」
ジョギングって。
運動嫌いの棒人間を誘う俊太のメンタルを称えたい。
『間違えてないよ! 絹井さんが適度な運動をした方がいいって言ってたろ? 走るのきついならウォーキングでもいいし!』
「…………暇人か?」
『悪かったな。おれだって優斗の力になりたいんだよ! 勝手に絹井さんに相談したのはおれだけどさ……友達だからいいじゃん!』
「……」
その言葉から邪険な感情など微塵も感じとれなくて、本心から俺の力になりたがっているのだと伝わってくる。
どれだけ優しくされても俊太と付き合うことはできないのに、そんなこと期待してないとはっきり言われた。
こんな仏のような人間が存在するなんて、前世でなにをしたんだろう。
「俊太がフォトグラで人気な理由が……ちょっと分かった」
『え、分かる? もっと言っていいよ』
「前言撤回」
『あはは! ネタにマジで返すのおもしろっ』
「……なに言っても信ぴょう性なくなるぞ」
『真面目すぎなんだって〜。ねえ、走ろーよー』
気は乗らない、けど。
たしかに運動なんてほとんどしてなかった。
今日はちょうど涼しい頃だし、たまにはいいかもしれない。
「……分かった。どこで会う?」
『やったぁ。じゃあ丸之内の駅前で!』
そういえば、明日は陸の誕生日だ。
帰りにケーキを買っておこう。
亮雅さんはサプライズが好きなようで、ランドセルにプレゼントを隠しておくと言っていた。
しっかりしている割に、そういうお茶目なところもあるらしい。
それに賛同してしまう俺も俺なんだけど。
「うわぁ! なにそのウェア、超かっこいい!」
駅に着いて、声の大きい俊太に困らされた。
あまり目立つのは好きじゃないのに、タイプが真逆すぎる。
「亮雅さんに借りて……」
「だからちょっとサイズがデカいんだ。黒っていいなぁ」
「……走るって、どのくらい?」
「んー、優斗あんま走るイメージないから2キロくらいかな。往復でも20分掛かるか掛からないくらい」
最近知ったが、俊太は元陸上部だったような。
そんなやつが走れば20分どころか15分も切りそうだ。
「おぇ……ついていける気がしない」
「大丈夫だって、会話ができる程度の速さでいいんだよ。ルートはおれに任せて! 行こ行こ〜」
こうして俺の肉体改造計画が始まったとか始まらないとか……
____そんなうまく話が回るはずもなく。
「待っ……ハァッ、俊太っ……もうムリッ」
1キロ地点で俺の限界がきて公園の道端に膝をついた。
「うははっ、長距離苦手なフレンズ?」
「っ……なんで、平気なんだよ……!」
「おれは普段から走ってるもん。ちょっと休憩しよ、飲みもん何がいい〜?」
「げほっ、げほ……同じので、いいよ」
悔しい。なんか悔しすぎる。
俊太に負けている。
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