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忘れていたが、今年の俺の誕生日には亮雅さんと陸が『おめでとう』と言ってくれた。
2人だけじゃない。
俊太や、初めて会ったばかりの律だってお祝いしてくれた。
そんな大事なことをなんで忘れていたんだろう。
「おめでたさん」
「誕生日プレゼント、気に入った?」
「うれしぃ。だいじするっ」
「うん、ありがと」
子どもが喜ぶものは分からなくて、陸の好きな花の束と靴をプレゼントした。
さっそくベランダの花壇に並べている姿を見てまた涙ぐんでしまった。
俺はずっと、こうしてほしかったのかもしれない。
自分の両親に。
平日で学校のある陸は、俺がプレゼントした靴を履いて登校していった。
なんとなく1人でいるのが寂しく感じて俊太へ適当なメッセージを送ると、すぐに返ってきた。
『今ランニング終わった!今日空いてるならランチでも行く?』
律と2人きりで食事へ行くのはやめてくれと亮雅さんに言われているが、俊太なら許してくれている。
俺が典型的な友人不足ということもあって、友情に厚い俊太は大事にしてやれとまで言われた。
行くよと返して、近場のレストランで落ち合うことになった。
「すっずし〜。もう店から出たくないやっ」
「……なんか悪いな、付き合わせるみたいで」
「なんで? 優斗からメッセージくることないし、嬉しかったよ。それにおれから誘ってるみたいなもんだし」
「そう」
こういう会話……返しが下手すぎるんだよな、俺。
「最近さ、ドッグホームってアプリにハマってんだ〜」
「ドッグ?」
「そ、犬を育てるアプリ! なんか動きがリアルで超可愛いの。ほらこれ」
「うわ、ちっさ」
「豆しばだもん!」
へえ、と相づちを打ってスマホの中の犬を眺めていると、ふと数人組の高校生が席についてはしゃいでいるのが見えた。
みんなスマホの画面を見ては爆笑していて、過去の自分はどうだったかと思い返す。
「……」
「バカだよなー、あいつら」
「え?」
「たぶんあれ、害悪行為だよ。商品汚して店のせいにしてネットにあげんの。前に注意されてたのにまだやってる」
「そ、そうなのか」
「うん。そろそろ出禁だな」
俊太がそういうと、お約束と言わんばかりに店長が出てきて高校生になにか注意している。
少し離れた席で会話が聞こえないが、高校生は不機嫌そうに立ち上がると店を出ていった。
「本当だ……」
「ざまーみろっ」
「よく見てるな」
俺はてっきり、すごく仲のいい高校生だとばかり思っていた。
よく見ていなかっただけなんだ。
「害悪行為とかするやつの神経がすごいよな。なにが楽しいんだか、ああいうやつとは絶対友達になりたくない!」
「……」
「優斗? 大丈夫?」
「あ、ああ…………俺、ずっと自分のこと最低なやつだと思ってた」
「へ?」
「迷惑かけてばかり、だし。めんどくさい性格だろ……だから」
「優斗が最低なやつなら、この世界もう壊れてるって。本当にひどいやつなんて自分を責めることまずしないし、てか誰にも迷惑かけない人なんていないし」
「……」
自分は嫌われても当然なんだと卑下してきた日々もあった。
でもそれは俺の勘違いで、自分を責める必要はないんだよと多くの人に言われる。
きっとそれが真実なんだろう。
俺が一番、自分を嫌っている。
本当の自分を許せないんだと。
メニューが運ばれて俊太と語り合いながら昼食を取っていたときだった。
見覚えのある背丈の男が、1つ先の通路を通ってトイレに行った。
「!」
心臓がバクンと音を立て、反射的に箸を置く。
「あれ? 優斗どった」
「……悪い、ちょっとトイレに」
「あ、うん。分かった」
気のせいだろ。違う。きっと見間違いだ。
そう自分に言い聞かせて、奥のトイレに駆けた。
「____」
男性用のプレートを潜った瞬間、俺の体は硬直した。
「と……父、さん…………?」
「っ…………優斗?」
なにも変わらない、無機質な瞳を覗かせた父がそこにいた。
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