アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
「父さんが……なんで、ここにいるんだよ。仕事場、神奈川の田舎だろ……?」
いざ対面すると気まずく感じて目を伏せる。
冷たい視線。
この男は本当に俺の父親なんだろうか。
「……こっちの方にヘルプで来てるんだよ。地元より都内の方が客も多いし人手も少ない。だから俺が出てきたんだ」
どこか他人行儀な口調に落胆する。
上手くいかない。
いつもいつも、俺は両親とすれ違う。
「優斗は、その、もう大丈夫なのか? 前にひどい事件があっただろう。母さん、心配していたぞ」
「……」
また母さん、か。
父は真面目で仕事熱心との評判だが、反対に自分の意思がないのではと疑問視されていた。
なにかあるとすぐに「母」が出てきて、まるで状況説明するだけのロボットだ。
子どものときから、いつも。
他人事のように助けてはくれなかった。
「…………父さん、は」
「ん?」
「父さんは……心配してないんだろ、べつに俺のことなんか」
「な、なんでそうなる。父さんだって心配していたに決まってるさ。でもほら、仕事がずっと忙しくてな」
「っ……」
結局、仕事のせいにして。
そうやって、自分だけ逃げてきただけじゃないか……!
「おーい優斗、大丈__」
「なんでいつもそうなんだよ!!」
声を上げたと同時に、鏡越しに俊太と目が合った。
思わず怒りを露わにしてしまった自分にハッとして視線を泳がせる。
唖然としている父にはそれ以上言えなくて、俊太に手を握られた。
「っ」
「……優斗のお父さん、ですよね。部外者のおれが言うのもなんですが、優斗はあなたと話したいことがあるので時間をください。ここじゃなくて、もっと話しやすい場所で」
なにを察したのか、淡々と告げて手を引いてくる俊太に驚きが隠せなかった。
父が頷くと同時に「行こ」と微笑み、さっきよりも力強く握る。
いつぶりなのか久々に会った父と2人きりになるのは少し不安もあった。
それを見抜いてか俊太は人気のない路地に出ると、すぐ近くで待ってるからと行ってしまった。
「…………」
「……」
どうしたらいいのか分からなくなった。
会いたくなかったはずの父親に、俺は何の用があって会いに来たんだろう。
「……克彦とは、どうだ。仲良くやってるのか」
沈黙を破ったのは父だった。
「仲良くは、ないけど……克彦には世話になってるよ」
「そうか。話って、なんだ?」
「…………」
「どうした。話してくれないと分からないだろう」
なにを考えてるのか分からない笑顔が苦しかった。
俺はやっぱり失敗作のままで、両親にとっては煩わしい存在なのかもしれない。
そう考えてゾッとする。
「…………俺、ずっと父さん達が好きだった」
「っ」
「小学校の入学式からずっと、母さんは優しい人だと思ってた。『友達をたくさん作ってね』って、泣きながら母さんは言ったんだ……だから、声をかけるのは苦手だったけど友達を作ろうとした」
「……」
「でもやっぱりできなかったんだ。どうやって声をかけたらいいのか分からなくて、母さんの望みを叶えられなかった……ごめんって思ってたよ、その時は。でも今度は勉強ができる克彦と比較されて、俺がどれだけテストで高得点をとっても母さんが褒めてくれることはなかったっ……」
父の表情が歪んでいく。
こんなことは今まで一度だって言ったことがなかった。
いつだって"何でも1人でできるはず"の俺でいたんだから。
「母さんは……自分の不完全さを子どもで埋めようとしているだけだって最近になって気づいた。だから克彦には甘かったんだ…………そんな母さんに従順な父さんが、俺は大嫌いなんだよっ」
喉が痛くて、胸が強く締め付けられていた。
必死によく見せようとしてきた自分じゃない、これが本心なんだと。
初めて知ったような感覚だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
103 / 231