アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
『わぁーったよ。んじゃ、彼女帰ってきたから切るわ』
「うん、分かった」
通話を終えて、短く息をつく。
まだ少しドキドキしている。
父のこと、克彦のこと、今こうして普通に会話できているのが奇跡みたいだ。
どうしてか不安を煽る記憶ばかり覚えているのに、優しさや温かさは部分的にしか思い出せない。
亮雅さんはこれを防衛本能だからと流してくれた、けど。
そのとき、玄関が開く音がして全身が跳ね上がった。
「ただいまー」
「……!」
反射的に玄関へ足が向かっていて、スーツ姿の亮雅さんと目が合う。
なぜだか話したいことが溢れ出してくる。
気づけば俺は亮雅さんに飛びついていた。
「うわ、どうした優斗」
「っ、亮雅さん……おかえりなさい」
「……ああ、ただいま。陸のやつ、喜んでいただろ」
「はい。ずっと絵本読んでましたよ」
「そうか。"ゆしゃんともケーキたべたい〜"とか言ってたぞ」
「ふふ……可愛いですね」
髪をさらさらとなでる亮雅さんの指がくすぐったい。
「今日……父さんに、会いました」
「え? 実家に帰ったのか」
「いえ、父さんが仕事のヘルプでこっちに出てきてたんです。偶然、会って」
「そうなのか……話はできたか?」
声が震えそうになって静かに頷くと、そっとキスをされた。
俺の様子を見て悪いことにはならなかったと察したようで、落ち着いた表情で話を聞いてくれた。
今日あったことを話すとき、無意識に早口になっていた。
まるで子どもが親に話すように必死になってしまい、話し終えて恥ずかしくなる。
「………すみません、しゃべりすぎました」
「優斗の新しい一面を見た気分だ」
「っ……こ、こんな歳でファザコンとか……引きます、よね」
「引かねえよ。それだけ嬉しかったんだろ? 今お前、すっげえ可愛い顔してるぞ」
「なっ」
ぶわっと顔が熱くなり腕で隠した。
「隠すなよー、可愛いのに」
「やめてください。可愛くないし、こんなん普通にキモいですよ」
「第一印象とは大きな違いだ。優斗が父さん大好きっ子だとはなぁ〜」
「だ、から……それやめてくださいっ」
「ははは、お前の幸せそうな顔が見れてよかった」
くしゃくしゃに頭をなでられて胸が苦しくなる。
嬉しい。亮雅さんの手が好き。
笑顔が、声が、なにもかもが愛おしい。
「好き、です……」
「俺もだよ」
優しく重なった唇。幸せだった。
今まで見えなかったものが鮮明に映り始め、俺は自分が思っていたより幸せ者なんだと知る。
愛しい男と、可愛い子ども、心強い友人。
そして忘れてしまっていた父親の温もり。
今になってようやく思い出せた記憶はたくさんあった。
夜勤続きで会えない父がこっそり冷蔵庫に入れてくれていた誕生日ケーキ。
それを泣きながら食べていたんだ。
ひどい記憶の上書きで一番大切な思い出が塞がれていたが、俺は愛されていなかったわけではないのだと。
思っていた____
「急に呼び出して悪いなぁ、優斗。久しぶりや」
ある朝、今泉さんから連絡があり家を出てきた。
大事な話があると真剣な口調で言った今泉さんに不穏な空気を感じて飛び出してきたのだった。
「どうしたんですか……大事な話って」
「それがな……えらい大変なことになっとるんや。優斗には話さんとあかん思ってな」
「え?」
嫌な予感がする。なんなんだろう。
今泉さんに案内された駅に着くと、見覚えのある女性が柱にもたれかかっていた。
「よう、待たせたわ。ユカリちゃん」
「……!」
やっぱりそうだ。
今泉さんが声をかけたのは、釣り場で会ったあの女性だった。
背筋がぞくりとして体が硬直していく。
「なん、ですか」
「あなたに話さなきゃいけないことがあるのよ」
「?」
「…………あなた、松本亮雅の恋人でしょ。私、あの人と浮気していたの」
「は?」
突然彼女から告げられた言葉に、俺はしばらくの間呆然と固まってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
106 / 231