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怪我の具合はひどいものだった。
頬や胸元を何度も殴られ、青黒いアザができている。
さらには男たちの汚い精液をかけられていて殺意が増す。
震えながらも俺の腕のなかで眠りについた優斗。
幸い、命に関わる怪我はしていなかった。
背後で忍び足に入ってきた今泉を振り返る。
「……話せよ、今泉。誰の指示だ」
優斗に俺の上着を羽織らせて立ち上がる。
気が収まっているはずもなかった。
「…………」
「早く言え」
「…………弥生ちゃんの、親父さんや」
「!」
愕然とした。
あの男がまた優斗を狙ったというのか……?
罪のない優斗をなぜ。
「病院で会うたんや……先進医療の手術で300万が必要やった。あの男は……亮雅と優斗に復讐する手助けをしてくれたら全額負担してやるって、そういう約束で……っ」
拳を握りしめた俺は大股で歩み寄り、頬を思い切り殴りつけた。
体勢を崩し尻餅をつく今泉の胸ぐらを掴み上げ、怒声をあげる。
「自分がしたことを分かってんのかッ! お前は娘の命を救うために何の罪もない優斗を見殺しにしようとしていたんだぞ!」
「ッ、あの子を救うにはこれしかなかったんや! 優斗には、悪かった思うてる……!」
「そんな救い方で、娘が本当に喜ぶと思ってんのかよ! 弥生の親父が嘘の取引をしているかもしれないだろ! んなことも自分で判断できなくなってんのかお前はッ」
かつての友人が闇取引が目的でふたたび会いに来たのかと思うと、絶句するしかなかった。
一番の被害者は優斗だ。
なにも知らないまま襲われて、誰も信用できなくなって当然だろう。
激しい怒りが湧き上がってくる。
「っ……すまん、ほんまにオレは……最低なことをした」
「…………謝って済む問題じゃねえんだよ。二度と優斗に近づくんじゃねえ」
血と涙で汚れた自分の顔を今泉は拭おうともしなかった。
死人のように項垂れ、友人であったかどうかさえもう分からない。
____
ことの一件は、詐欺及び誘拐の傷害事件として新聞の一面に取り上げられた。
優斗の実名報道はされていないが、実行犯である田沼陽光、それに加担していた今泉と久本ユカリは逮捕され、実名が明記されていた。
優斗に暴行を加えたチンピラ達も連行されて事情聴取を受けているらしい。
警視庁からの話では、俺に偽装した録音データを変声ソフトで作り上げて優斗を騙したとのことだった。
優斗のメッセージも今泉が送信したものだと知ったときは、気が狂いそうになった。
全ては娘に縁を切られた田沼陽光の復讐が目的だ。
あまりにも酷すぎる動機に、ネットで田沼を中傷している声もたくさんあった。
今泉の娘の手術費用は銀行で借金をして賄ったらしい。
「…………」
総合病院の一室で眠っている優斗は、事件の実情をまだ知らない。
そっと頬をなでると、微かに眉が動いた。
「優斗……」
そのとき、乱暴なノック音が聞こえてドアが開けられた。
「っ! ゆ……ッ」
「静かにしてくれ、まだ寝てる」
勢いよく入ってきたのは克彦だった。
焦りを隠せない様子で、眠っている優斗を見るとホッと胸をなで下ろす。
「……容態は」
「昨晩、一度目を覚ましたが今日はまだだ。……悪かった」
「あんたが謝んのは俺じゃねえ。こいつは昔から1人でなんでもやろうとするからな……ビビりのくせに、他人を頼ろうとしねえ」
「……」
優斗を見下ろす克彦の目は、出会った頃と全く違っていた。
愛を超えて依存していた面影はなくなり、弟を思う兄の顔をしている。
「あんたじゃなきゃ、ぶん殴ってたよ」
「……俺はいいんだな」
「腹立つけど……こいつはあんたといるのが本当に幸せだって顔すんだよ。俺には優斗を支配する資格がねえ。こいつが人間に怯えるようになったのも俺のせいだからな……だから、あんたに任せるしかないんだよ」
「俺が悪人だったらどうすんだ」
「そん時は殺してやるよ。ま、あんたには優斗を殴ることもできねえだろうけど」
「当たり前だ。手出してまで支配しようとは思ってねーよ」
丸イスに腰かけた克彦がニヤニヤとこちらを見やるものだから、バシッと頭をはたいた。
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