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❖記憶 -side 椎名優斗-
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1人の病室は恐怖を誘う。
亮雅さんが陸を迎えに出てから、腕についていた点滴が外された。
なにかあればナースコールをしてくれと看護師に言われたが、"なにか"の基準が分からない。
震える体を布団に埋めてジッと耐える。
誰もいないのに怖い。
男たちの暴行で痛む体が苦しい。
誰か、来てほしいのに。
ちょうどその時、背後でドアの開く音がした。
「!」
「優斗」
「っ、……克彦?」
振り返った先にいたのは克彦で、思わず深い息をつく。
「克彦……」
「やっと目覚ましたか。体調大丈夫か?」
「うん、大丈夫……来てくれてたんだ」
「当たり前だろ」
上体を起こすと、克彦の手がこちらに伸びてきて肩が跳ね上がる。
身構えていたが殴られるはずがない。
分かっているのに怖い。
クシャクシャと髪をなでられ、幼少期の自分と重なった。
「克彦、俺っ……なにも、してない、から」
「……ああ、分かってる。よく頑張ったよ、お前は」
「っ……ごめん」
気が動転して心臓の鼓動が早くなる。
そんな俺を思ってかベッドに腰を下ろした克彦に背をなでられた。
痛いほど優しい手の温かさが伝わってくる。
「話は聞いたか?」
「……うん。亮雅さん、から」
「そうか……なにも心配すんな。もう終わった」
「あり、がとう」
克彦の肩に体を預けていると呼吸が楽だった。
ここは安全なんだと、本能で安堵する。
「……何年ぶり、だろ」
「ん?」
「克彦に、"大丈夫だよ"って抱き寄せられたの」
「っ、……お前がどんだけアホで俺を許したところで、俺がしてきたこともアイツらと同じだ。だから喜ぶんじゃねえよ」
「…………克彦は、あんなやつらと違う。皆、愉快犯だったんだ。金と欲のためだけに動いてた……克彦は、違うから」
「……」
俺が窮屈を感じていたように、克彦もプレッシャーやパワハラで心身がおかしくなっていた。
孤独の檻から解放されて見えたのは、残酷な真実だけじゃない。
ふと窓の外を見上げたとき、ノックが聞こえてドアに視線を移す。
「ゆしゃん!」
「わ、陸っ」
「かしゃんもいるっ」
「よぉ、クソガキ」
駆け寄ってきた陸が克彦に飛びつき、やめろと拒絶されている。
だが口の割に嫌がっているふうではない。
「かしゃんもおみまいなの!」
「ああ」
「ゆしゃん、いたいのだいじょぶ?」
「……うん、ありがとう」
眉を吊り下げて困った顔をする陸に癒された。
亮雅さんがどこまで話しているのか分からないが、それほど深くは言ってないだろう。
「これもってきたっ」
「チーズケーキ?」
「うん、ゆしゃんにプレゼント」
「はは、ありがとな」
陸の姿を見ただけで少し元気が出た。
箱入りのチーズケーキを受け取って丸台に乗せると、陸が克彦の膝に乗り上げようとしているところだった。
「俺はお前のオモチャか」
「かしゃんのくるまっ、走るよぉ」
「走らねえよ。こら、暴れんな」
「ブーン!」
俺が狙われたのは、弥生さんの父親が企てた復讐だった。
あんなに恐ろしく苦しい思いをしたというのに、陸や亮雅さんと離れるのはやっぱり嫌だと思う。
俺にとって2人は大切な家族であり、かけがえのない存在なんだ。
「……克彦、少し院内を歩きたいんだけど。手を、貸してほしい」
「あ、あぁ」
子どもの力はすごいものだ。
きっと陸がいなければ俺は病室から出ることもできなかったかもしれない。
「歩けるか?」
「うん、大丈夫」
幸い、打撲の痛みはなんとか耐えられるほどだ。
克彦に手を貸してもらいながら病室を出た。
何度か見ている景色のはずなのに、廊下やナースステーションが妙に新鮮だった。
「ゆしゃん、おててつなぐ」
「ありがと」
陸の手を握り、長い廊下をゆっくり歩いていく。
自分が生きていることが奇跡のようで、どうしてか心が軽くなった。
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