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そろそろ時間だからと父の家を出ようとしていた俺は、父に「送るよ」と言われて車で送ってもらった。
心配する気持ちと単純に話がしたかったらしい。
「ごめん、わざわざ送ってもらって」
「いいんだよ。彼氏と来るときは事前に教えてくれよ? 俺は器用じゃないから、もてなすには時間が必要だ」
「……ふ、なんだよそれ。ありがとう」
微笑んだ父の手が俺の頬に触れ、ピクっと肩が反応する。
こうして向き合うのはどこか気恥ずかしい。
「また話を聞かせてくれ。しっかり休むんだよ」
「うん、父さんも」
玄関先で見送って家に入ると、廊下に陸の描いたイラストが数枚落ちていた。
学校の授業で描いたのかな。
そっと手に取ったとき、ドアの閉まる音が背後から聞こえて跳ね上がる。
「!」
び、びっくりした……
やっぱり1人はキツい。
大きく呼応する心臓の辺りを手で押さえて深呼吸した。
なにもない。もう終わったんだ。
俺はちゃんと、生きてる。
「……ゔぇ」
男たちの汚い精液の味を思い出してしまい、脱衣場に駆け込んだ。
性器を挿れられなかったことが不幸中の幸い、か。
「ゲホっ、ゲホ……気持ち悪い……」
ゲイだからって誰でもいいわけじゃない。
口をゆすいでリビングに戻ると、ソファに腰かけてサメのクッションを抱き上げる。
「……亮雅さん……早く帰ってきて」
物音ひとつで怯えてしまう自分が情けない。
だが、こうして家に帰ってこれただけ進歩だろう。
俺と同じ被害者である今泉さんの娘があの後どうなったのかまでは分からない。
亮雅さんは気にしなくていいと言っていた。
きっと俺の負担を少しでも軽くしようとしてくれたのだと思う。
もう……忘れたい。
「はぁ……」
徐々に眠気がやってきたが、眠るとひどい夢を見てしまう。
病院で寝ている間も姿がぼやけた人間に追いかけられる夢を見て苦しかった。
亮雅さんが悪人に見えたのもそのせいだ。
上体を起こして重いまぶたを擦っていると、玄関の方で物音が聞こえてくる。
「優斗、いるか」
「っ……」
リビングに届いた亮雅さんの声。
なぜだか泣きたくなってクッションに顔を埋めた。
陸の前では強くいようと奮い立たせることができるのに。
「……優斗、大丈夫か?」
「早上がり……多いんですね」
「課長に頼んだ。有休使ってっから安心しろ」
「…………すいません、そんなことまで」
顔を上げられない。
亮雅さんと目を合わせると本当に泣いてしまいそうだ。
俺だって男、なのに。
「……3人で遊びに行こう。自然が多いところでのんびりするのもいいぞ」
隣に腰かけた亮雅さんが俺の肩に手を置いた。
なにも言っていなくても気遣ってくれるこの人の優しさが愛おしい。
「どうした」
「強く……なり、たくて。でも、亮雅さんに会うと……やっぱり、無理です」
「俺は完璧な優斗が好きなわけじゃない。それに優斗は弱くなんかねえよ、自分が一番分かってるだろ?」
「……」
「キャンプに行くならでかいテントを買わないとな。魚釣りもまたしよう、家にいるより外に出た方が余計なことを考えなくて済むはずだ」
「はい」
微かに覗いたすき間から亮雅さんを見上げると、優しい微笑みをこちらに向けていてドキッとする。
「あっ……いや……なんでもない、です」
「ははは、オーバーだな。こっちおいで」
「っ」
「……ここ、されたのか? あいつらに」
「うぁっ」
耳許で尋ねてくる亮雅さんの声があまりにも真剣だったから、口から漏れた声に羞恥心を煽られた。
尻に触れた手がそっと動いて傷がないか確かめている。
恐怖から解放された反動で敏感に反応してしまう。
「ん……されて、ない……ですっ」
「本当に?」
「……はい、前を触られた……だけで」
「チッ……クソ、腹が立つな」
唇の重なる感触に、そっと目を閉じた。
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