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不思議なことに、俺は亮雅さんの腕の中で熟睡してしまった。
夢を見た記憶もなく目が覚めた頃にはテントにいた。
「おはようさん」
「……おはようございます。何時ですか」
「まだ7時だよ。変な夢見てねえか」
「はい。気づいたら、寝てました」
恋人の凄さを改めて実感した。
気持ちも落ち着いていて昨日のことが嘘のようだ。
「近くにアスレチックがあるんだってよ。陸が行きたがるだろうな」
「……」
あぐらをかいて座った亮雅さんに、どうしてか甘えたい欲が湧き上がってくる。
眠気のせいもあるだろうが、俺は四つん這いのまま這っていって亮雅さんの肩に顔を埋めた。
「……どうしたんだ」
「亮雅さんに、くっついてると……落ち着く、ていうか」
後半は口ごもって声が小さくなった。
心臓の音を悟られたくない。
「なぁ、優斗。口」
「え?」
「顔上げろ」
「なんです……ふ、んっ」
強引に引き寄せられて唇が熱を持つ。
何度も求め合うように啄んで、舌に唾液を絡ませる。
キスだけで声が漏れて思わず胸を押し返すが、簡単には離してくれなかった。
「ふ……んっ、ぅん……」
やばい……
陸に、聞こえる……っ
「い、や……ですっ、ハッ……陸が起きるっ……」
「もう少し声を我慢しろ。敏感すぎ」
「ッ、強引にやるからですよ……! 俺は、別に」
「クククッ……そんなヤラシイ顔してんのによく言うよな。他の男を煽んなよ」
「……あんたのせいだ」
ボソッと厭味げに呟けば、愉快そうに笑った亮雅さんがテントを出ていった。
あの男はいつもいつも人の心を乱してくる。
優しいのか意地悪なのかまるで分からない。
ほんっとにタチが悪い……
「はぁ……」
無意識にため息をついてテントから顔を覗かせた。
夏場は朝が早い。
まだ曇り空で覆われているものの、眠気覚ましには丁度いい。
「来いよ、優斗」
「変なことしないでくださいよ……」
「しないって。バナナでスムージー作ったんだ」
早朝は風が気持ちいい。
ベンチに腰かける亮雅さんの隣に座ると、グラスを手渡される。
一口含むだけで甘さが口腔内に広がった。
何気ない朝のルーティンが贅沢なんだよな……
「そういや、優斗はピアス嫌いか?」
「え? えと……憧れは、ありますけど、機会がなかったって言うか」
「実はこの間、街でペアもののピアスを見つけてな。優斗なら気に入るんじゃねえかと思って」
「っ」
ペアのピアス……?
そんなもの、嬉しいに決まっている。
でも顔には出せなくてつい俯いてしまった。
「亮雅さんが……いいなら」
「はは、可愛いな本当」
「……」
「じゃ、リングの前にピアスだな。余裕が出たらペアリングも買おう」
「あ、ありがとう……ございます……」
顔が熱くて仕方ない。
亮雅さんとペアものを着けるなんて奇跡みたいだ。
恋人ではあるが、ゲイはあまりオープンにできるものじゃない。
だからこそ嬉しい。
「やっぱシルバーだな。優斗はその方が似合う」
髪をなでる亮雅さんの手が視界の端に見えるとドキドキする。
この鼓動の高まりが収まってほしい思いと、もしそうなった後の切なさを想像して葛藤した。
「パパぁぁ、ゆしゃんー……っ」
「あ」
テントの方から声がして振り返れば、寝起きの陸が腹を掻きながら歩いてきた。
泣くことはなくなったが、寝起きで俺たちを探す癖は相変わらずで安心する。
「スムージー飲むか。目が覚めるぞ」
「ほしぃっ」
「寒くなかったか? 陸」
「すずし。風がびゅんびゅんふいてる」
「それならよかった」
ふぁぁ、と小さく欠伸をする陸をなでて微笑む。
そういえば、陸と同じ頃は克彦とよく遊びに行ってたっけ。
嫌な記憶を退けてよく思い返してみれば、俺の中にも思い出と呼べるものがたくさんあることに気づいた。
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