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❖愛し君
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頭皮に感じる柔らかい感触。
一方で首元にはゴツゴツした硬さが触れている。
ゆっくりとまぶたを開けると、亮雅さんの優しい声色が聞こえてきた。
「ああ、見積りは作ってある。課長のデスクに置いてあるはずだ」
電話をしているようで、相手はおそらく谷口さんだった。
亮雅さんに膝枕をされているのだと知った途端に恥ずかしくなり、枕を顔に抱いた。
「顔、隠しても分かるぞ」
「っ……さ、産地直送……です」
「は?」
「さっきの電話、谷口さんですよね……」
「そういうこと。もういい加減慣れろよ、結婚してもそんなんだとやべえぞ」
け、結婚……
リアルに口に出されると、なんだか恥ずかしいんだけど。
「逆に……亮雅さんは、どうなんですか。モテるから関係ないでしょうけど」
「ふてくされんなよ。俺だって緊張する」
「嘘です。絶対平気なくせに」
「まぁ、なんつうの。優斗は癒しみたいなところもあるからな。正直、他人といるときより安心してる」
「……」
「満足したか」
「……べつに」
素直じゃねえ、と笑う亮雅さんに見られないように枕へ顔を埋めた。
こんなに緊張する交際相手は初めてだ。
貴也のときとはわけが違う。
亮雅さんと俺、どちらが好きの度合いが大きいのかと勝負してみればおそらく俺が勝つ。
「ナン、エサだよ」
ミドリガメの赤ちゃん。
成人の第2関節ほどしかない小さな子どもだが、最長で50年は生きる生き物だ。
「ナンが寂しくならないように、あと40年は生きねえとな」
「……陸が独り立ちするまでは死ねないですね」
「ふ、そんなこと言えるようになったのか」
毎日の生活が楽しくなったのだから、その恩返しをするのは当然のことだ。
関係を続けていたいし、陸が成人する姿もこの目で見たい。
俺はデスクに向き合い、ペンを滑らせた。
『笑い合える世界を』
こんなことを唱えていたら笑われるかもしれない。
でも、悩みごとは当人にしか分からない。
それを発信せず誰が理解できるというのか。
そう教えてくれたのは、亮雅さんや家族の存在だった。
「母は……初めは否定していた。そんなはずないと……」
思ったよりスラスラ書きたい言葉が出てきた。
原稿用紙にペンで物語を創りながら、いつか自分もその主人公になりたいと思う。
きっと、いるはずだ。
「____おはゆうしゃん!」
朝のあいさつは思わず笑ってしまう心地よいものだった。
「おは陸」
「いひひひっ、おはりく。ヘンなのぉ〜」
「陸がいなくなってる間にナンを食べたよ」
「あぁぁ! ゆしゃんもうキライなるもん!!」
ぷんすこ怒って靴を脱ぐ陸に皿に乗ったパン生地のナンを見せると、目を丸くした。
「これ、ナン」
「もぉぉぉっ、ナンくん食べたおもったぁ!」
「あははは、食べるわけないだろ?」
「ゆしゃのいじわるーっ」
「痛い痛いっ、ごめんって。代わりにお菓子あげるから」
「おゆるす」
単純すぎ……
靴を脱いだ陸が抱っこしてと言わんばかりにくっついてくるから、脇腹をくすぐってやった。
「やぁはは! ずつきぃっ!」
「痛って! よくもやったな」
「ゆしゃんから逃げろぉぉ!」
「こーら、あんまり走り回るなよー」
言ったそばから床に敷かれた布で足を引っかけた陸が枕に転ぶ。
あーあ、だから言ったのに。
でも陸は痛くなかったようで、ゲラゲラ笑っている。
亮雅さんに似たのか俺に似たのか、変人なところは健在だ。
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