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告白
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「たくさん、いっぱいって、ちがうの?」
「え?」
歩いて公園へ向かいながら、陸が難しいことを聞いてきた。
成長する過程で当たり前のように使ってきた言葉も、説明しろと言われると頭が重い。
「先生がね、どっちもつかうって」
「うん、どっちも間違いじゃないんだよ。ただなんていうか、ニュアンス? が違ってて」
「ぬあんす」
「ニュアンス。たとえば、先生や俺みたいな大人が使うときは「たくさん」で、陸みたいな子どもが使うのは「いっぱい」が多いってこと。あとは、そうだな……」
「ぬあぁー」
「って聞いてないだろ」
「いひひひっ、聞いてたもん。ゆしゃんは「たくさん」で、陸は「いっぱい」でしょ」
なんだよ、と言ってイタズラ好きな陸を抱き上げる。
人をからかうのが好きらしい。
小学生はこういう子が多いようだ。
俺もこんな小学生がよかったかも……なんて。
「しゅっぱーつ」
「こーら、暴れない。落とすぞー」
「あ! 車さん、道はあっちですよぉ」
「誰が車だって?」
「ゆしゃるまさん」
「……あんまり、"しゃん"って言わなくなったな」
嬉しいような寂しいような。
早いもので陸は俺が気づかないほど順調に成長していっている。
きっと時間を重ねるたびに大きくなっていくんだろう。
そしていつか、手の届かないところまで。
「ゆしゃるましゃんっ」
「…………なんか俺が慰められたみたいじゃん。それはおかしいって」
「ゆうたん?」
「煽ってるのか。もうお口チャックだよ、陸はしゃべらない」
「はむむ〜」
陸があまりにも純粋で優しくて、なぜだか罪悪感のようなものを覚える。
そうこうしているうちに公園のポストに着くと、ショルダーバッグから厚い封筒を取り出した。
「……ふー……大丈夫、何度も読み返したし。きっと伝わる」
「?」
手を合わせてポストに向かっている俺はすごく滑稽なんだろう。
でも、父が紡いでくれた大きなイベントで緊張しないはずがない。
もう一度、深く息をついて封筒を投函する。
「…………よし」
「おし」
「緊張少し解けたぁー……」
「きんちょ、少しとけたぁ」
「陸ー、もういいから。お口チャックだろ?」
「チャック、チャック」
疲れがドッとやってくるのかと思えば、開放感に満たされている。
あとは結果を待つだけだ。
「きみ、椎名じゃないか?」
「!」
ほっと一息ついてベンチへ腰掛けたときだった。
背が高く脚の長い男がこちらへやってきて、陸と俺を交互に見下ろしてくる。
「……どちら様ですか」
「なんだよ、忘れたのか? 短大同じ学科だったんだけどな」
「え? そう、だっけ」
男はそう言うと突然、隣へ腰掛けてきた。
なんの遠慮もない言動に少し嫌悪感を覚えて立ち上がろうとするが、「まぁまぁ」と腕を掴まれる。
「久しぶりなのにそれはないって」
「……俺は覚えてないんだけど」
「はは、ひっで。椎名は他人に興味ないもんな」
「……」
なんだかいい印象のしないやつだ。
陸を隠すように隣へ座らせると、男は前のめりになった。
「その子、自分の?」
「ああ、そうだよ」
「嘘だな」
「はぁ?」
「椎名に小学生くらいの子どもがいるのはおかしいだろう。おまえ、ゲイって聞いたし?」
「っ!」
挑発的な視線を向けてくる男を睨み返し、陸の手を取って立ち上がった。
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