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連絡先に相田の名前が追加された。
男が好きとは言っても、もちろん意識する対象は同性全員じゃない。
「ゆしゃん、子どもランドいきたい」
「子どもランド? なにか見たいのか」
「うん、サメしゃんのバッジほし。それとね、ハムくんの仲間みる」
「……ふ、分かったよ」
子どもランドは子ども向けの科学館で、観光スポットとしても有名な場所だ。
売店や遊び場まで設備され、親子連れに大人気らしい。
「ちょっと待ってな」
亮雅さんに電話で伝えておこうと、立ち止まってスマホを取り出す。
郵便局に行く前送っておいたメッセージは届いているようだ。
『____もし』
「亮雅さん、すみません。陸が子どもランドに行きたいみたいなので、もう少し帰りが遅れます」
『ああ、了解。そんな業務報告みたいに言わなくてもいいんだぞ』
「あ……えと、はい」
『くくく、可愛いなぁ』
「なっ……うるさいんですけど」
『はぁー、可愛い可愛い。真っ赤な顔してるお前が目に浮かぶ〜』
「してません。呆れてます、怒ってます」
いまだ聞こえる亮雅さんの笑い声。
顔が焼けて溶けてしまいそうだった。
いつもこうやってこの男は……
『帰ったらもっと可愛がってやっから、周りに気をつけて帰ってこいよ』
「か…………もう帰りません」
『えー、つまんね』
気づいたら強引に通話を切っていた。
心臓がドクドクと騒がしく鳴っている。
べつに変な想像はしてない。
あの男が悪いんだ。
「りょしゃんおこったぁ?」
「……ううん。なにも問題ないよ」
「やたー!」
いや、問題大ありだ。
帰宅したらどんな顔して会えばいいんだよ。
気まずさを抱えたまま子どもランドにやってくると、陸がマスコットキャラクターの訪問に目を輝かせた。
「ぬいくんだ!!」
「ぬ、ぬい?」
「ゆしゃん、あっち行く! ぬいくんと握手!」
どうやら、マスコットキャラクターの名前が「ぬい」というらしい。
見た目はいかにもエビだが、一体どこから名前が出てきたのかさっぱり分からない。
「ぬいくんーっ」
「……」
俺はひねくれすぎなのだろうか。
マスコットキャラクターと握手をする陸を眺めながら、中の人に挨拶しそうになった。
着ぐるみを着て仕事なんて、きっと大変だろうな。
「ぬいくんのてて、かわいーね」
「ふ、陸の倍くらい大きいな」
「頭くらいあるよっ」
亮雅さんが隣にいないのは少し寂しい気もするが、それでも子どもと科学館に来ることもなかった。
嬉しくないわけがない。
「ぬいくん、ばいばぁい!」
十分に遊んで満足したらしい。
ぬいくんに手を振って次に陸が目指すのはカブトムシが飼育されている昆虫ゾーンに行くことだ。
俺はここぞとばかりにスマホを取り出し、こっそり動画を回した。
「わぁぁっ、みて! チョウチョいっぱい!」
昆虫ゾーンは一般開放されている。
入園にはチケットがいるため、管理スタッフから購入した。
昆虫や客に被害がないようスタッフが見回りをしているが、さほど気にならない。
「あ、ハムの仲間がいるよ」
「ハムくん!?」
陸の一番見たかったカブトムシたち。
木の幹に集まり、休んでいるようだ。
「かぁいい」
「陸はカブトムシが大好きなんだな」
「好き! カクくんもまたいないかなぁ」
「……」
子どもの心は純粋で、穢れを知らない。
だから接し方が難しい。
「いつか会えるかもな」
「うん!」
生きている人も虫も動物も、いつかは別れがくる。
亡くなったあとはどうなるんだろう。
また、会えるなんてあるのだろうか。
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