アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖
-
「____え……」
腹部に突きつけられたのは拳銃だった。
周囲で慌てている様子が視界に映るが、声が消えた。
「迷惑だって? フンッ、喧嘩売る相手を間違えたんじゃねえのか。兄ちゃんよ」
「……っ」
俺の脳内に亮雅さんの姿が見えた。
拳銃を突きつけられ、殺されそうになっているあの人の姿が。
その瞬間、俺は動けなくなった。
鼓動が加速し、喉が詰まる。
あの日の光景が恐怖心を煽り、脳の機能を鈍らせる。
「どうしたよ、さっきまでの威勢はどこへ行ったんだろうな?」
男の声が上手く聞こえない。
死ぬ____
そう思ったとき、男の背後に立ったコート姿の女が男に銃を突きつけた。
「銃を下ろしなさい。警察よ」
「っ、くそ! なんでサツがここにいんだよ!」
「大迷惑な客がいると聞いて、駆けつけない警察がいると思う? 諦めなさい」
「どいつもこいつも馬鹿しかいやがらねえ!! どうなってんだ、この街はよ!」
警察と名乗った女が無線機でなにか合図をとると、入口や従業員専用口から数人の警官が突入してくる。
男はまだ抵抗を見せようとしたが、観念したのか銃を下ろして立ち上がった。
現実に戻ったように体が軽くなった俺の元に男性警官が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか。救急隊を呼んでいますので、ご安心ください。どこか痛むところはありますか?」
「ありがとうございます……頬だけです。あの、息子が」
「ああ、お子さんですね。少しお待ちください」
俺と同年代に見える若い警官だった。
奥で泣いている陸の元に駆け寄り、なにやら言葉をかけている。
警戒心の強い陸でも警視庁の人間が危険人物ではないと分かっているらしい。
コクリと頷いたと思ったら、真っ先に俺の方へ駆けてきた。
「陸っ、もう大丈夫だぞ」
何も言わずに飛びついてきた体を抱きしめて頭をなでてやる。
ブルブルと震えていて、どれほど怖かったのだろうと心が傷んだ。
「ごめんな、1人にして。俺は大丈夫だから」
「ゆしゃん死んじゃうと思った……こわかった、っ」
「……うん、ごめん」
正義感の強い亮雅さんの気持ちが、今なら少し分かる。
守りたい存在がいるから、俺は強くならなければいけないんだ。
「脈測りますね。痛むのは頬だけですか?」
「はい、他は大丈夫です」
「一度医師の診断を受けて、なにも異常がなければすぐに帰宅できますからね。ボクももう少しだけ頑張ろっか」
陸が頷く姿を見て、ホッと安堵する。
救急車の外では忙しなく人が動いている。
たった1人の男が、これだけの多くの人を混乱させた。
俺にはとても考えられないことだ。
「優斗! 陸っ」
「!」
愛しい声が聞こえ、途端に涙が溢れそうになった。
こちらに駆けてくる亮雅さんと目が合い、安心感に包まれていく。
「なにがあったんだ……その怪我は」
「りょしゃんーっ」
「すみません、ちょっと……亮雅さんの真似をしてしまって」
「真似? なんの」
「いえ、なんでもないです」
なぜか誇らしい気持ちになってはにかんだ。
亮雅さんの恋人、そして陸の父ということが、俺にとって一番の自慢だ。
「心配させるなよ……心臓発作起こすところだったぞ」
「ふ、ごめんなさい」
「なーに笑ってんだ。年寄りとか言うんじゃねえよ」
「言ってませんよ。陸、帰ったら刺し身にしような。さっき頑張ったから」
「おさしみ、食べるっ」
あんなに怖かったのに、今は幸せだ。
すごく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
181 / 231