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あまりの恐怖に泣けてくる。
無意識にここから落ちたときのことを想像してしまう自身の想像力を恨んだ。
「ごめんなさい、俺……やっぱ無理です」
「泣きそうな顔するなよ、挫折してる大人だっていくらでもいるだろ」
こちらへ戻ってきた亮雅さんの手が頬を挟み、顔の距離が近くなる。
「な?」と励ますように優しく言われ、素直にうなずいた。
よく見てみれば、俺以外にも怖くて進めない大人も結構いるようだ。
「ほんとに、すみません」
「謝るなって。2人きりのときはお前の本心が聞けて満足してんだよ。陸がいるときは父親らしくいようとするからな」
「……それは、」
「俺も以前はそうだった。でも、家族なんだからもっと気楽でいい。一生を共にする相手に気遣ってたら早死にするぞ?」
「……」
一生を共にって。
言葉にすればするほど信じられない。
どこを見ても周囲にいる家族連れは男女の夫婦だ。
それが人間にとってはごく普通で。
「また羨ましそうな顔してんな」
「っ」
「羨ましがんのもいいけど、他人と全く同じじゃないってのもいいじゃねえか。少なくとも、俺は恥ずかしいなんて思わないぞ」
「…………ふ、亮雅さんらしいです」
一言一言に、いつも救われる。
こんな人もいるんだと知ることができる。
俺の想像はきっと勘違いで、本当はもっとたくさん温かい人間関係があるのだろう。
「俺らが同僚だって勘づく人間が何人いんのか気になるな〜」
「ああ……そういえばそうでした」
「忘れてたのかよ」
「亮雅さんって……プライベートだとあんまり上司感がないというか」
緊張はもちろんする。
でも、仕事とプライベートでは完全に別人の顔だ。
すごく器用で憧れるものだ。
「プライベートでいちいち上司って顔すんのも面倒くさいだろう。上司が実生活でも偉いとは限らねえし」
「でも、あんまり下手に出るとナメられません?」
「いいんだよ、優劣つけたい奴には好きにさせてろ。昼飯食いに行くぞー」
「……はい」
もしもう一度生まれ変われたとしても、俺は俺でありたいと少し思った。
そしてまた、亮雅さんの隣をこうして歩けたらいい。
照れくさいような本心はそっと隠して、カフェへ向かう亮雅さんの後を追った。
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