アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
❖戸惑い side 松本亮雅
-
「こういうとこのワイングラスは割れやすいから、乾杯もグラスを当てずにやるんだ」
「は、はい」
ソワソワして落ち着きのない優斗に簡単なマナーを教えながら、その造形美に見とれていた。
「……可愛い顔してんな」
「! か、顔なんて今は関係ないです。夜景でも見ててくださいっ」
「お待たせ致しました。こちら、突き出しのメニューでございます」
1人で騒いでいる優斗とは正反対のトーンで男性ソムリエが小皿を並べていく。
大きめのスプーンにサーモンで形作られた薔薇がひとつ。
たったこれだけの料理でも退屈させないその業にさえ感心した。
「可愛い……」
「感動してるお前を撮りたかった」
「これは、感動します。でも自分には輝きすぎというか……こんな綺麗なものもらえるなんて」
「喜んでもらえたなら何より」
これだけ綺麗で陰の人気者であるというのに、優斗はいつも自信がない。
わざわざこの夜景コースを選んだのも、この男にはピッタリだと思ったからだ。
だが、どうやら自身の魅力には全く気づいていないらしい。
「これ、美味しい……です」
伏し目がちに料理を摘む優斗を激写できないのは唯一の失態だ。
勝手に照れて目をそらす顔も、可愛い。
以降、男に目覚めることはないだろうが。
「あ、見てください。ハロウィンのお化けが浮いてます」
「ああ、餅みたいだぞ。シェフのサプライズだな」
「可愛いですね。こういうサプライズもあるんだ……」
無自覚に出てくる笑顔をまっすぐ見ていたい欲望と、あまりの可愛さに見ていられない羞恥のような感情が交差する。
特に理由もなく街の夜景を見下ろし、ふーっと小さく息をつく。
「俺……亮雅さんとは長くいられそうな気が、します」
「っ」
俺の反応を確かめるようにチラリと一瞥してきた優斗。
普段は絶対言わないセリフが簡単に出てきたのは、この夜景のせいなんだろうか。
抱きしめたい衝動に駆られてしまうが、なんとか堪えて苦笑いを浮かべた。
「はは、そうだな。つーか、"いられそう"じゃなくていてくれよ。俺も陸も歓迎だ」
「…………本当はちょっと怖かったですけど。いつか捨てられるかもって」
「あのなぁ、一応お前にだって選択権があるんだ。俺がホイホイ捨てるような人間なら優斗も捨てればいいんだよ。遠慮すんな」
「はい」
家庭環境は人の性格を大きく左右させると何度も聞いたが、優斗は典型的な従順タイプだ。
人に必要とされることが自分の喜びになる。
そんなのはまやかしで、本当に大切にすべきは自分なんだといつか気づいてくれたらいいが。
「オードブルをお持ちいたしました。ごゆっくりお召し上がりください」
「ありがとうございます」
ぺこりと会釈する優斗の肌色が、いつもよりずっと調子よく見えた。
優斗は俺の過去を知らない。
だから、俺が外出できないほど意気消沈していた時期もあったと知ったときは唖然としていた。
本当は話したいこともたくさんある。
問題なのは、何から話せばいいのか思いつかないことで。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
191 / 231