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「春田くん」
「はい」
入学してから、もう何度目かの出席確認。返事をするだけで良いのに、何故か緊張する。こればっかりは一生慣れないだろうな。
大きな伊達眼鏡を中指で押し上げながら、授業中、先生に指名されないことを祈りながら黒板の文字をノートに写していく。
伊達眼鏡、だから実際視力は悪くない。高校に入ってからかけ始めたからたまにかけ忘れるし、眼鏡を携帯するのに慣れてなくてさっきも理科室に置いてきてしまった。
中学の時から女顔を馬鹿にされていじめられてきた。修学旅行や体育祭などのグループ分けでわざと女子の班に入れられたり、直接、男子から女みたいで気色悪いと言われたこともある。そんな嫌いなこの顔を隠すために伊達眼鏡をして、そのうえ前髪を校則に引っかからない程度に伸ばしているため、高校ではまだ容姿をいじられたりはしていないが、このままだとこの三年間も友達を作ることは難しそうだ。
だけど、いじめられるよりは一人でいる方がよっぽどましだった。
中学の同級生とできるだけ同じ学校には通いたくなくて、なるべく地元から遠い、電車で五駅先にある進学校を僕は受験した。
僕には全く同じ顔をした双子の兄がいる。彼はいつも弱い僕を守ってくれた。でも、高校に入ってまで彼に心配と迷惑をかけるのは避けたくて、あえて彼とは違う高校を選んだ。兄は最後まで一緒に高校生活を送ることを提案してくれたが最終的には僕の気持ちを汲んで、応援してくれた。こんな素敵な兄に毎日良い報告ができるように、どうかこのまま平和に何事もなく日々が過ぎていくことをただただ願う。
ふと窓から外を見渡すと一列にならんだ桜並木が視界に入る。今年は遅咲きだったため、入学式ちょうどに満開を迎えた。やっと綺麗に咲いたのに、風が吹くたびに花びらが散ってしまうのが惜しい。
惜しいといえば、さっき廊下でプリントを大胆にばらまいていた先生は何の教科を担当しているのだろう。白衣を着ていたから科学などの理系だろうか。もしくは養護教諭か。なんだか不思議な人だった。授業が始まってしまうからプリントを拾い終えてから急いで教室に戻ったが、一声かけた方が良かっただろうか。
きっと先生は僕の名前もクラスも知らないだろう。彼は生徒に人気がありそうだから僕とはもう、話すこともないかもしれない。そう考えたら、何も言わず立ち去ってしまったのは惜しいことをしたかもしれない。
視線を窓の外からクラスへ移す。ほとんどの生徒が先生が書く黒板の文字を一生懸命にノートへ写していた。この授業の先生は文字を消すのが早いからその分生徒も手を休める暇がない。全員の視線が前に向かっているのならこの邪魔な眼鏡をしている意味はないだろう。僕は伊達眼鏡をそっと机の上に置いて、再びノートに文字を書き始めた。
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