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「埃っぽくてごめんね、今ちょっと窓開けるから…」
「あっ、いえ、お構い無く」
初めて入る物理準備室は確かに荷物が多いせいか狭くて薄暗いしとても掃除が行き届いているようには見えなかったが不思議と居心地は悪くなかった。窓を開けながらこちらを振り向く神岡先生はまた僕に微笑んで、向かい合わせになった椅子の片方をひいて僕に座るよう促した。
「し、失礼します」
「あはは、そんなに畏まらなくていいよ」
「はい…」
「ここの教室、ほとんど物置なんだけど今年から僕がこの教室の管理をすることになったんだ」
「そう、なんですね」
「遠回しに、ここの整理整頓を任されたって感じかな」
冗談っぽく言ってから笑う先生が嬉しそうな顔をしているのが不思議で僕は首をかしげると、先生は少しだけ目を細めて視線を下げた。
「…僕ね、実は人と話すのがあんまり得意じゃないんだ。職員室ってさ常に他の先生がいるでしょ?だからこうやって自分の空間ができたのが嬉しくて」
「神岡先生、お話上手だと思いますけど…」
「え、本当?ありがとう」
「あ、あの、僕と話すのは大丈夫…ですか?」
「うん。どうしてだろう、いつも人と話すときの胸のそわそわする感じが春田くんと話すときはないんだ」
「それなら良かったです」
「ごめんね、いきなり僕の話ししちゃって」
「いえ。…でも、神岡先生でも苦手なことがあるって知ったら、ちょっとだけ安心しちゃいました」
先生に笑いかけると、彼も同じように笑ってくれる。先生は僕のことを綺麗だと言うけれど僕は先生の方が綺麗だと思う。背が高くてスタイルがよくて、かっこよくて。それでいて優しくて。僕がほしいスペックをすべて持っている。
「…僕、自分の見た目が本当に嫌だって、そう、思っているんですけど本当に嫌なのは性格の方だったんです。僕には双子の兄がいるんですけど一卵性だからほとんど同じ顔で、同じようにいじめられてきたんですけど兄はそんなクラスメイトに絶対負けないんです。その上僕のことまで守ってくれて…すごく強いんです。でも、高校では兄に心配かけないように違う学校に行くことにしたんです。兄がいなくても頑張ろうって。…でも」
途中で言葉が詰まってしまう僕を神岡先生は急かすことなくただ頷いて聴いてくれる。気を抜いたら声が震えてしまいそうだから両手をぎゅっと握りしめて力を込める。
「やっぱり恐くて。結局僕は逃げてるんです。こうして顔を隠して誰とも関わらないことでなにも起こらなければ恐くないから」
「春田くんは偉いよ。今まで自分を守ってくれたお兄さんから離れて自分の力で生きようとしている。僕はまずそれを行動に起こした春田くんを褒めてあげてほしいな」
「僕を…褒める?」
「お兄さんはきっと、同じ学校に行こうって誘ってくれたんじゃないかな」
「は、はい」
「でもそれを断ってまで春田くんは勇気を出して別の高校を受験したんだよ。同時になんでも頑張らなくて良いんだよ、でも春田くんは今のままじゃ春田くんが決めた、“お兄さんに心配かけないように頑張る”は達成できないんだよね」
「…はい」
「じゃあ僕もその目標に協力する」
「えっ…?」
「でも、あくまで頑張るのは春田くんだから目標達成できたらそれは春田くんの努力だよ」
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