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神岡先生は、僕につけた前髪のヘアピンを指さしてまた微笑む。
「…と言っても明日乗り越えたら、ほとんど目標達成だと思うけど」
「気持ち悪がられないでしょうか…」
「女の子みたいって悪口言ってたのは、クラスの男子とか?」
「はい…」
「春田くんの周りはさ、女の子多かったんじゃない?」
そう言われて、改めて今までの学校生活を振り替える。確かに、男子生徒からの悪口ばかり気にしていたが女子たちはそんな男子に構わず休み時間になると僕の髪の毛を結ったり、顔に軽く化粧などをしていた。それもオカマとか女顔がどうとか悪口を言われる原因ではあったけど、彼女らに悪気はなかった。
「言われてみれば…そう、かもしれないです」
「でしょ、何て言うかさそれくらいの年齢の子って好きな子いじめたくなるんだよ。あとは単純に女の子と仲良くしてる春田くんが羨ましかったんじゃないかなぁ」
「羨ましい…」
「うん。1組の生徒がどんな生徒なのか、まだ良く分からないけどみんなもう高校生だもん。みんなもう子供じゃないよ」
「…はい」
「勇気を出して変わろうとした春田くんを笑ったり、悪く言う生徒がいたら僕がなんとかする。もちろん、春田くんの今後の学校生活に悪い影響を与えないようにね」
「あの、神岡先生は…どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?今日、初めて会ったのに」
彼の申し出はすっごく嬉しいけれど心のどこかで引っ掛かっている疑問を素直に問うと先生は一瞬目を丸くしてから、また笑う。
「春田くんは僕の生徒だから」
「神岡先生に、もっと早く会いたかったです」
「でもここで会えて良かった。春田くんがここの高校を受験してくれなかったらきっと一生会えなかったから」
「…確かに、そうですね」
「そうだよ」
「あの、あ、明日…僕の前髪、今みたいにしてもらっても良いですか?その…神岡先生が留めてくれたら上手く行く気がして」
あんまり先生が優しいから、つい甘えてしまった。自分からお願いしたのにすごく恥ずかしくて、顔が熱くなる。触って確かめなくても頬が真っ赤になっているのがわかった。赤い顔を隠したいのと同時に先生に拒まれるかもしれない怖さから顔を俯ける。膝の上で固く握った手に汗をかく。
机の上に大きな影が迫るのを感じて少しだけ見上げると先生が僕の頭を撫でた。
「うん、勿論だよ」
初めて頼った先生に受け入れられたことが嬉しくて思わず自分の顔が赤いことも忘れて今の感情を全力で表情で伝えると、彼は僕の頭に置いた手を頬に添えた。
「せんせ…」
「話してくれてありがとう。…僕も、頑張らなきゃね」
「お礼を言うのは僕の方です。神岡先生、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。さ、暗くなる前に帰ろうか。春田くん家遠いんだっけ?気を付けてね」
「は、はい。ありがとうございます」
物理準備室を出ると、外はすっかり夕焼けていた。こんなに長く家族以外の人と話すのは初めてかもしれない。明日が来るのはまだ少し怖いけど自分のために、協力してくれる先生のためにも頑張ろう。
「じゃあ、春田くんまた明日」
「はい、神岡先生また明日」
ドアの前で笑顔で手を振ってくれる先生に手を振りかえして、僕は昇降口へ向かった
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