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今日は嬉しいことがあった。隣の席の田崎くんと少し仲良くなれて、放課後には挨拶もして。そのあと先生と中学校までの話や、双子の兄のこと、そして今僕が顔を隠していることについて話した。自分のことを誰かに話すことなんて今までなかったから、とても恐かった。だけど先生と話した後の僕の心はとても軽い。桜並木の下を足取り軽く、地面に落ちている桜の花びらをできるだけ踏まないように歩いていく。今までは隣に兄がいたけれど、今は一人だ。今朝までは心細かったのに今はそこまでの不安は無いし、登校するときはとても長く感じた通学路が、今では短く感じる。今日は環境の変化がたくさんあって、まだ心が追い付いていない。落ち着かない胸をそっと撫で下ろしたとき、先生に頭を撫でられたことを何度か思い出して頬が熱くなった。
そんなことをしているうちにあっという間に家に着く。玄関を開けると同じサイズのローファーが雑に脱がれている。兄のものだ。中学生の頃から何度も母に注意されてるのに。相変わらずな彼と自分の靴を一緒に揃えてリビングへ向かう。
「あら、琉兎おかえり」
「ただいま。今日の晩御飯なに?」
母のいるキッチンまで聞きに行くと鍋をお玉でぐるぐると混ぜていた母が明るい表情で僕の顔を覗く。
「今日はお父さんのリクエストで鯖の味噌煮よ。…琉兎、なんだかご機嫌ね」
「えっ、なんで…」
「顔を見たらわかるわよ、何か良いことでもあった?」
「う、うん…。今日ね、隣の席の田崎くんとお話ししたんだ」
「よかったじゃない、明日もお話しできるといいわね」
「うんっ」
「ふふ、晩御飯あともう少しでできるからその間に宿題してきちゃいなさい」
「はーい」
僕が兄と違う高校に行きたいと言ったとき、心配かけたのは一緒の高校へ通おうと誘ってくれた兄だけじゃない。父も、母も僕の進路についてはだいぶ悩ませてしまった。だから、僕が学校の話をして母が笑顔になってくれるのが本当に嬉しかった。
兄と兼用の部屋のドアを開けると、机に向かう兄がこちらを振り向く。
「依兎、ただいま」
「琉兎遅かったね…って、なんか良いことあった?」
母と全く同じ表情で、同じ質問を投げかけられたのが可笑しくて。僕が今日のことを話すと同じように兄が笑顔になってくれるのがとても嬉しい。余計な心配をさせたくなかったから、明日の事と神岡先生の事は話さなかった。
「ねぇ、依兎も何か良いことあったでしょ」
何となくだけど、僕の件を話す前から機嫌の良い兄に問うと驚いた表情をする。
「なんでわかったの?」
「ふふ、依兎のこと見てたらわかるよ」
「…うん、あのね今日後ろの席の人と連絡先交換したんだ」
「えっ、すごい…!」
「何となくね、僕となんだか似てるなぁって思って…思い切って連絡先聞いたら交換してくれた」
「良かったねっ、その人はどこの中学校なの?」
「県外から来てるんだって。家から一時間半くらいかかるみたい」
「そうなんだ、早起き大変そう…」
「いつか琉兎にも紹介したいな」
「うんっ、僕も田崎くんを依兎に紹介できるくらい仲良くなれるといいなぁ」
「なれるよ、絶対」
「うん…、頑張るね」
再び机に向かった依兎は気が付くとスマホを見て嬉しそうに口角を上げていた。そんな彼を見て僕もつられて口角が上がってしまう。
いつも僕を守ってくれて、でもそれと同時に敵まで作って一緒に孤立してしまった彼に心から信頼できる親友ができることを祈った。
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