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AM 7:50。いつもより30分早く学校に着く。今日は神岡先生との約束の日だからか、なんとなく早く目が覚めてしまった。下駄箱で靴を履き替えてそのまま彼がいるであろう物理準備室へ向かった。
「し、失礼します…」
そっとドアを開けると窓際に座っている先生がこちらを振り向いた。
「あ、おはよ。春田くん」
「おはようございます」
「こっちおいで」
ちょいちょいと手招きする彼の近くまで行くと学校の備品っぽい鏡を僕に渡して椅子に座るよう促される。
「ねぇ、春田くんって何座?」
突然の質問に咄嗟に答えられず誤魔化すように首を傾げる。
「星座占い」
「えっ…えっと、牡羊座です」
「牡羊座…あっ、すごい!今日の占い一位だ、幸先良いね」
占いの記事を表示したスマホを僕に見せながら先生が微笑む。きっと僕の緊張を和らげようとしてこの話題を振ったんだと思うと、胸の奥がじわりと暖かくなった。
「僕には神岡先生が居るから、きっと大丈夫です」
せめて、何かお返しになるようなことを言いたくて伝えた言葉だったけど先生は何故か驚いたような顔をする。それを見て自分が言った発言の恥ずかしさに気付いて、頬が熱くなる。
「す、すみませんっ、変なこと言って…」
「ううん、嬉しい」
先生が僕の前髪を何度か指で解かしてからななめに寄せる。拓けた視界に、神岡先生の整った顔が思っていたよりも近くに見えて慌てて視線を下に逸らした。
「僕が居るから、大丈夫だよ」
こんなに近くにいるのに耳元で囁かれて全身が熱くなる。先生の言葉が嬉しいとか、そんな余韻を感じる暇もないくらい心臓が騒がしくて苦しい。
「あれ、春田くん顔真っ赤だよ、熱でもあるんじゃ…」
僕の前髪を手際よくヘアピンで留めてから、先生の大きな手のひらが僕の頬を包んだ。神岡先生の手は冷たくて僕の頬の熱を急速に奪っていく。
「ほ、ほんとに熱いけど大丈夫?」
「神岡先生がかっこいいから…あの、恥ずかしくて」
顔が真っ赤なのはもうバレてしまったから隠せないと思った僕は正直にその理由を伝えると今度は先生の顔がだんだん赤くなっていく。
「せんせ…?」
「恥ずかしいのは僕の方なんだけどな」
「す、すみません…っ」
「…ね、鏡見てみて」
「え…?」
最初に渡された手鏡で自分の顔を見ると、長い前髪が右から左に寄せられている。朝、顔を洗うとき以外自分の顔を見ないからこんなに観察するのは初めてかもしれない。あと、思っている以上に顔が赤い。
「春田くんって、本当綺麗だね」
「えっ?」
「肌が白くて睫毛長くてお人形さんみたい。…って、ごめんね、生徒にこんなこと言ったらセクハラになるよね」
「い、いえ、神岡先生に褒めてもらうのはすごく嬉しいです」
「良かった。綺麗だよ、春田くん」
「な、何度も言うのは駄目です…っ」
「えー、どうして?」
「恥ずかしいから、です」
「あはは、可愛いなぁ」
「先生…!」
「ごめんごめん。まぁ、何かあったらいつでもここに来てね、授業入ってないときは大体いるから」
「はい。あの、神岡先生ありがとうございます」
「どういたしまして。あ、もうこんな時間なんだ。そろそろ教室に行く?」
「あ…」
いざ、その時がくると急に怖くなって足が動かなくなる。僕が持っていた手鏡を先生が机の上に置く。空いた手を、大きな手が包み込む。
「か、神岡先生…?」
「大丈夫。春田くんいい子だもん。今日はきっと上手くいくし、今を乗り越えたら目標はほぼ達成できるから」
神岡先生は微笑んで僕の手をぎゅっと握った。さっきまで冷たかった彼の手はすっかり暖かくなっていて、代わりに冷たくなった僕の手をじわりと温めてくれた。
「お兄さんやご両親に良い報告ができるように頑張ろ。それに今日の春田くんは星座占い一位なんだし」
「ふふ、そうですね。ありがとうございます、先生」
「じゃあ、また一限目にね」
「はい、今日の授業、よろしくお願いします。では失礼します」
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