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カラオケ大会
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「戸田、奈々子婚約おめっとー」
戸田と奈々子の婚約をお祝いする会を主催して全員が集合していた。
俺、松永、戸田、奈々子、モリクミ、鎌やん。
そして大阪から招集された児玉と一時帰国していたお富さん。
お富さんの都合に合わせて招集をかけた。
「あーん!!奈々子嬢もとうとう人妻になるのねー!!やーん!!おめでとー!!」
「ありがとうモリクミさん」
「はぁーん!!お富ーっ!!あたしたちは独り身で辛いけど頑張りましょーっ!!」
「え?あたし彼氏いるよ?」
「やーん!?」
「わはははは!!」
「てめぇ何笑ってやがる!!」
モリクミが鎌やんを蹴っていた。
「ちょ.....いきなり暴れないでください。お富さん。彼氏いたんです?」
「うん。あっちで出来た。二年目かな?今一緒にルームシェアして住んでる」
「お富ーっ!あんたまでーっ!?」
「モリクミあんたも大学時代ヤンデレのイケメンにストーカーされてたじゃない」
「あんなヤンデレいやーんっ!!」
「なん?モリクミそんなことあったん?」
初耳だ。
「そうよ。モリクミイケメンにストーカーされてたよ。ヤンデレだったけど」
「マジで!?」
「あいつぅううう!!この豊満なバディ!!この豊満なバディ狙いよーっ!!あたしの体目的の男ばかり寄って来るのー!!あーん!!あたしは松永くーんとか長野くーんみたいなイケメンがいいのーっ!!」
勘弁してくれ。
しかし人の趣味とは分からんものだな。
見た目モリクミで性格に問題ありのこいつのどこにそんな魅力が。
豊満って言葉越えた体型だろうが。
「イケメンのデブ専とかブス専多いからなぁ。世の中不公平だ」
「てめぇえええええ!!シレッとお前ぇええええ!!」
モリクミがガスガス吉野を蹴り殴る。
確かに。
ゲイの間ではデブ専のイケメン多かったりする。
三桁の体重ない男には興味ないとかいうイケメンたち。
ゲイである俺たちにもさっぱり分からんが。
ノンケでもそうなんだろうか。
糖尿病予備軍じゃないか。
ディスってるわけじゃないよ?
「あーん!!あたしには松永くーんと長野くーんさえいればいいのーっ!!」
「勘弁してくれ、オニギリ女」
モリクミはオニギリヘッドのかぶり物をして胴体もオニギリのコスプレをしていた。
どこで売ってるんだよそんなの。
オニギリの海苔の部分にモリクミの顔が出ている。
具はモリクミの顔ってか。
オニギリが二つ重なっているような格好だ。
「あーん、あたしを食べてー!!長野くーん、松永くーん!!」
「お前サラッと怖いこと言うな。おい、松永にオニギリで迫るのやめろ!!」
モリクミがオニギリヘッドを松永にグリグリしている。
松永がオニギリで押されてよろけていた。
俺たちの家で婚約おめでとう!の食事会をしていた。
しこたま飲んで食事をしてカラオケに行こうということになった。
「松永なん歌う?」
「僕歌わないでみんなの聞いてる」
松永がカラオケに来るのはこれが初めてだ。
人前では恥ずかしくて歌うことも出来ないからだろう。
「松永めでたい席やけんね?空気読もうか。俺も一緒に歌えるの選ぶけん」
「うーん....」
俺たちが「何歌おっかー」と選んでいる時に曲が流れる。
おい。
カラオケの画面にドでかく「天城越え」の文字と東映の映画で見るような岩とザッパーンっていう波が映っているんだが。
誰だこの選曲。
ってモリクミお前かーっ!?
何故か吉野が喜んでいる。
ゲイってこういう女の情念みたいな歌好きだからなぁ。
吉野のオネェ心に火をつけるんだろうな。
昔行っていたゲイバーとかでユーミンとか中島みゆきとか石川さゆりとかよく歌うやついたなー。アムロとか浜崎とか。
モリクミがマイクを持ってスクッと立ち上がる。
おいおいおい。
石川さゆりに成りきってるのがむかつくんだが。
「隠しきれない移り香がっ いつしかあなたにしみついた 誰かに盗られる位なら あなたを殺していいですかっ!?」
ヤンデレ曲来た。
お前、俺たち見て歌うな怖ぇよ。
「モリクミさんうまいなぁ」
「モリクミよく素人の演芸大会みたいなのに飛び込みで参加したり老人ホームで歌ったりして人気あったからね」
「お富さんマジで!?」
「うん」
拳をまわして歌うモリクミは確かに上手かった。
でもなんでその選曲なんだよ。
これ婚約おめでと会のカラオケだっつーの。
「モリクミさんが石川さゆりに見えて来るこの不思議」
奈々子が笑う。
身ぶりとたまに見せるドヤ顔とキリッ!!の顔がすげぇーむかつく。
本家に劣らないドヤ顔キリッ!!ぶりだった。
最後に手をこちらに伸ばしてドヤ顔をされて松永が苦笑しながら手を叩く。
「上手いね」
「いや、上手いけどさ。なんだよこのウザさは」
次の曲が流れて来た。
「おぃいいいい!?」
カラオケの画面には「津軽海峡冬景色」と出ている。
吉野がスクッと立ち上がる。
お前ら変な争いしてるんじゃねーっ!!石川さゆりで曲埋めるんじゃねーよ!!
「おい、戸田、奈々子。このままで行くと演歌になる。石川さゆり大会になる!!お富さん、鎌やん!!児玉ぁああ!!先輩!!曲入れろ!!」
「いいじゃん。好きな曲入れていこ」
「おぃいいい!?」
俺の「幸せなお祝いムードいっぱいのカラオケ会」の予定が何故か石川さゆりの音楽会になっとるやないかーい!!
「なんだろう、まったりって言うかねっとりと言うか」
「ウェットな雰囲気のカラオケになるね」
戸田と奈々子が苦笑いしている。
鎌やんはヘビメタみたいな曲を入れるしお富さんはまだマシで洋楽とか入れて歌っていた。
鎌やんの曲は松永が曲名を覚えていたがDark moorのthe night of ageって曲みたいなのばかり歌ってた。みんなドンびきだ。手を叩いて盛り上がる曲じゃねー。
お富さんはテイラー・スィフトとかリアーナの曲とか歌っていたが昔のjpopのバラードとかも歌ってちゃんと意識はしてくれてたっぽい。とりあえず歌いたい歌を選びつつ空気読んだな。
このカラオケは戸田と奈々子の婚約盛り上げる為ってなぁ!!
他のやつらは変な曲ばっかり(石川さゆりディスってるわけじゃないよ?)歌ってんじゃねーよ!!場の空気を読め。
俺と松永は男性のデュエットでケミストリーとかを歌った。
以前にも書いたがケミストリーの曲を町で聞いたり、あっちの話でも書く為に何曲か聞いていたから知っていた。
歌ったのは愛する雪恋する空とかAlmost in loveとかやね。
「松永君が歌うの初めて聞いたー」
「やーん!!松永くーんっ!!はにかむ姿もいいっ!!」
「松永君うまいねー」
松永は声が高いからいいが俺がケミストリー苦しぃいいい!!
松永はもう一つの話のコメントでも書いていたが小さい頃音楽したり中学の時もブラスバンド部だったらしく1回聞けばメロディがなんとなく覚えられるっぽい。
そのブラスバンド部も二年の時に辞めたらしいけど途中で投げ出さない松永にしては珍しい。なんかあったのかもしれないが自分語りするのを好きじゃない松永からは聞いていない。
児玉もなんか歌ってはいたが興味がなかったからか全然覚えていない。
存在感も歌も薄い。
いつも通りだ。
なんか俺だけ盛り上げようとしているのがアホらしくなって後半は好き勝手に歌っていた。
松永も慣れて来て鎌やんや吉野にカラオケのリモコンのペンタブ持って操作方法を教えてもらいながら曲を見ていたりしていた。
「長野曲入れといてやったぞ」
「代わりに入れてあげたからね」
「あ?」
ビールをしこたま飲んで酔っ払い気味の俺に戸田と奈々子がニヤニヤしながら言う。
しばらくして曲のイントロが流れて来てすぐ分かった。
松永と離れ離れになった時のことだ。
松永が留学してしまった時に戸田と奈々子と俺の三人でカラオケに行った時に俺が泣きながら二人の前で歌った曲だ。
あの頃は無理やり戸田、奈々子に大学に連れて行かれる以外はバイトも辞めてサークルにも顔を出さなくなって家に閉じこもるようになっていた。
気晴らしに何度も戸田や奈々子に連れ出してもらっていた。
こいつらまだ覚えていやがったかー!!
Exileのただ逢いたくてという曲だ。
今のゴテゴテしたExileじゃなくて昔のメンバーの時のやつね。
歌詞がそのまんまその時の気持ちだったんよね。
Exileは好きじゃないがこの曲だけはその頃の俺の心情そのままでカラオケで歌って感極まって二人の前で泣いてしまった。
家にいる時もよくこの曲ばかり聞いていた。
歌ってさ。
その歌聞くと当時を思い出すって曲あるよね?
みんなもあると思うんだ。
俺のその当時の歌がこれなんだよね。
Exileは別にどうでもいいんやけど(ディスってるわけじゃないよ。この曲だけなんかよく耳についてさ)
その頃の荒んでいた俺の生活を思い出させる曲なんよね。
「おー、これ長野?」
お前しらじらしいんだよ。
戸田がニヤニヤしながら言うのを睨む。
松永の前でこれ歌わせるとかこいつら......。
マイクを持って立つ。
俺を松永がじっと見てた。
歌ってると当時のことを思い出す。
あぁやべぇ。
泣きそうだ。
こんなに簡単に思い出せる。
いなかった時の辛い気持ちも。
傷つけたことも。
喪失感と後悔。
俺の自己満で気持ち悪いかもやけど。
でも本当に悲しかったんだ。
俺が悪いんやけど。
松永が歌う俺を不思議そうな顔で見る。
「長野うまかったよ」
「うるせーよ」
戸田に声をかけられてブスっとした顔で俺は席に戻って座る。
「松永君もそう思うよね?」
奈々子が松永を見て言う。
「うん。上手かったよ。いい歌だね」
「.........」
こんな歌もう歌いたくねー。
こんな歌に気持ち引きずられるようなあの頃みたいになりたくない。
こんな歌毎日聴いて思い出していた日々には戻りたくねー。
「松永君は何を歌う?」
「僕ですか?」
「うん。長野の今の歌に続けるならどんな歌にする?」
「うーん?戸田君と奈々子ちゃんのお祝いの歌も含めて選びます」
戸田が松永にリモコンを渡す。
松永は少し考えて曲を選ぶ。
俺がitunesで買った曲でpcにもiphoneにも入れてた曲だ。
松永が歌った曲は今思えば全部そうだった。
全部俺がpcに入れてitunesで購入した曲だった。
全部俺が聞いていた曲を歌っていた。
ミスチルとかさ。
その時松永はphatmans after schoolのツキヨミという歌を歌った(youtubeに公式ある)。
歳取るとさ涙って出やすいんかな。まだ若いけどさ。
俺泣きそうになった。
そのことに気付いてブワッって涙が出そうになる。
「あーん!松永君ー素敵よー。いい歌ねー」
「はい。僕も好きです。長野がよく聞いてて覚えちゃいました」
ニコッと俺に松永が微笑みかけた。
「でもさこの曲死んだ人に対して歌ってるんじゃなかったけ?」
「吉野ぉおおおお!!黙れぇえええ!!」
「うん。でも愛してる人に向けて歌ってる歌だから長野に歌おうと思って」
「松永君のろけるなー」
鎌やんが松永が茶化す。
「だって愛してるからですね」
松永が真面目に返すのを聞いて俺は松永に抱きつく。
「うぉおおおおおお!!松永ー!!お前離さねえええええ!!幸せにするーっ!!」
「く.苦しい」
「なんだか松永君と長野君のノロケの為のカラオケになったね」
お富さんが戸田と奈々子に笑いながら言う。
「いいんですよ。俺たちも幸せだし友達が幸せなのを見るのもいい。お互いの苦しい時知ってるから」
「そうそう。私たちもいろいろあったけど長野君も松永君もいろいろあったねー」
戸田と奈々子の言葉に全員が
「あー」
「あったねー」
「あの時大変だったねー」
と思い出していた。
松永が教えてくれた。
過去を共有するってこういうことか。
なんとなく俺もその時その言葉の意味が分かった。
幸せなことなんだなって。
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