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半漁人と無言
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その後の同窓会は部活のだけに顔を出した。
毎年部活の連中とは帰省した時に会うんやけどいつも通りで安心した。
俺も含め相変わらずアホの子のまま成長したアホな大人だった。
妙な安心感がある。
朝帰りして昼まで寝て起きて家族と松永と話をしていた時に俺が大学に受かってその後合格祈願をした太宰府天満宮にお礼に行ってなくね?っていう話になった。
いまさらだと思うんやが。
大学合格してからどんだけ年数経ったよ?
第一志望の松永と一緒の大学落ちとるし。
俺がそんな話をしたら母ちゃんと姉貴が噛みついた。
「あんたね!!あんたの頭で○○大学に行けたのだけでも奇跡ったい!!お礼ば行かんね!!」
「そうよ!!あんたいくら最後に頑張ってたけんって!!あんたが行った大学も毎回D判定やったやないね!!ぎりぎりよ!!お礼ば行けっ!!」
母ちゃんと姉貴の剣幕に従う感じで俺と松永そしてまたもや母ちゃんと姉貴がついて来る。
ぜってー俺たちと出かけて暇つぶししたかっただけやろう.......
父ちゃんの車を出して父ちゃんはまた家で寝腐って俺たち4人で出かける。
まーた気合いバリメイクか.......姉貴はナンパされでも行くのかって位に髪とメイクに気合い入れとった。俺と同じでエエカッコしぃな性格だ。
俺の性格を見ている気持ちになった。
家族やなぁと。
俺とうまくやっていける松永は俺の家族共うまくやっていた。
この性格をうまくあしらえるのかもしれん。
「うぉ?これなん!?スタバ!?」
太宰府天満宮の参道にへんてこな建物があってよく見たらスタバのマークがあった。
「そうよー。あんたは知らんかったやろねー。出来たんよー。有名よーめんたいワイド(地元番組)とか出たんよー」
「そうなんか。入ってなんか飲もう」
店内に入って松永はコーヒーが飲めないので甘そうなフラペチーノ頼んで俺たちも好き勝手にサイドメニューなんかも選んでその「珍しいスタバ(太宰府天満宮 スタバ でぐぐれば出るよ)」で休憩している時も写メで参道から写す人間がたくさん見えた。
その時俺の携帯が鳴る。
メールの着信音だ。
モリクミと名前が出ている。
こんな時にあいつか。
嫌な予感しかしないがさすがに福岡までは追っては来ないだろう。
「なんね?女ね?」
母親がするどい視線でめざとくそのメールに警察犬ばりに反応しおった。
姉貴は松永をチラッと見る。
松永はよく知っているから姉貴の視線に「問題ない、いや問題あるけど」と複雑な表情で苦笑いしていた。姉貴は勘違いしていたかもしれない。そんな間柄じゃねーよ。脅かす存在だってーの。
「どうしたんね?メール来とるんやろ?見らんね?」
「いやぁー......今は見たくないってーか」
「なんね?彼女ね?」
「違ぇーよ!!おそろしいわ!!」
「じゃあなんで隠そうとするんね?見らんね」
そこまで隠そうとするのもおかしいやろと俺も思い直しどーせモリクミのメールやけんクソつまらんネタやろうけど俺と松永のこと打った文やと困るなぁと思っていたが携帯を席に置いてみんなの前で開けてすぐに全員が咳込んだ。
「見てーんミ☆あたしのお盆はバニーでーすキラキラハート(なんか変換されん。そんな顔文字)」
バニー姿のモリクミの画像送って来おった。
誰得だよ!!
「なんねこの女は!?あんた東京で何しよるんね!?」
母親が激怒りだった。
「違うっ!!この女は友達って!!」
「友達にこんな画像送って来るんね!!あんた!!東京で変なことしてるんやないね!?」
「ほんとにこの人僕たちの友達でちょっと変な人で......」
責められている俺を松永が必死にフォローしてくれて母親も落ち着いてくれた。
「あんたの友達どうなっとるんね!?」
「ほんとにな......」
「他人事みたいに言いなさんな!!あんたのことやろーもん!!」
だけどよぉー。俺も分からんて。
あいつなんで毎回俺たちの行く先々で問題起こすんだよクソがっ!!
トイレに行く時に
「てめぇー。帰ったら覚えとけよ」
とモリクミにメールを送って電源を切って席に戻った。
すると松永の携帯にメールがじゃんじゃん届く。
「ちょっと.......なんで僕に来るの」
モリクミからメールで「あーん」やら「やーん」やら届きまくっている。
そしてなんでかまた変な画像を送って来やがった。
「打ち上げられましたキラキラハート」
という題のメールを開けるといつかの「メーテル」という名の美輪明宏ばりの金髪をかぶって多分人魚の格好をしたモリクミが波打ち際でトドのように寝そべっている画像だった。
「うぉおおおおおえええええええ!!キショイんじゃぁあああ!!」
「モリクミ先輩お盆に何やってんの.........」
「松永君なんねこの女は........」
「あのーそのー少しいえすごく変な人でして。気にしないで下さい」
「気になるって。東京で芸人でもしとるんねこん(の)人は?」
姉貴と母ちゃんが画像見て爆笑していた。
打ち上げられたドザエモンみたいに波打ち際でずぶぬれでお前何やってんの。
胸は水着で隠れて下半身が半漁人みたいになってたんやけど誰が写してんだよ!?
お前人魚やなくてトドかセイウチにしか見えんつーの!!
「モリクミはあれやな。何してもモリクミやな」
「そうだね......お盆暇なんだろうね。暇だから絡んで来ようとしてるんだろうね.....どうしてこんな格好しようと思ったんだろう。お盆って海行っちゃいけないとか言うのにね。だから回りに誰もいないんだろうね」
「そうやな。なんかさここまで行くとすがすがしいわ。むかつくが」
その画像をそっ閉じして俺が松永の携帯を扱ってゴミ箱フォルダに入れてまた参道を歩く。
太宰府天満宮ん中にさ太鼓橋っていう赤い橋があるんよね。
カップルとか夫婦で渡ると別れるっていうのが俺たちが高校ん時も言われてたんやけど俺がなんとなく気にしてた。そういうんのがあるんよねジンクスっていうか。
「長野どうしたん?」
その赤い太鼓橋を渡ろうとする松永の手を引っ張る。
姉貴が「ははーん」って分かったような顔をして俺を見る。
「あんた橋渡らんでぐるって回って来ぃーよ。あたしとお母さんと松永君は橋渡るけん」
「なんでって!?松永も俺と一緒に遠回りするけんいいって!!」
「なんでね?」
母ちゃんだけ俺たちの仲を知らないから不思議そうな顔をしていた。
松永を引っ張って耳打ちする。
「この橋カップルで渡ったら別れる言われとるとって」
「は?そんなの信じてんの?」
松永が呆れていた。
「もしもってこともあるやろ!?気になるやん!!」
「そんなもんないよ。行くよ」
「ちょ!?」
松永に逆に手を引っ張られて赤い太鼓橋を渡る。
俺が強張った顔をしているのに母ちゃんや姉貴や松永は笑いながら歩く。
そういうの嘘やったとしても気になるやろう?
だってずーっと言われてるんぞ。
なんとなく気になるやん。
「別れる時の理由がこんな橋のせいになるの?そんな関係だった?」
松永が小さい声で二人に聞こえないように俺につぶやく。
「いや」
「そうやろ?だったら関係ないよ。ただの橋やない」
ペシッと橋を松永の手が叩いた。
そういうとこたまに強いな。
賽銭投げてお参りする時に無意識だろう。松永が
「長野を東京の大学に受からせてくれてありがとうございます」
としゃべっていたのが嬉しかった。
言った後、「はっ!?」とした顔をしていたが口をついて出てしまったんやろうけどそうなんよ。俺が東京の大学受かってなかったらこうなってなかったけんなぁ。
「松永君いい子やねー」
「松永君バカのためにありがとねー」
と母ちゃんと姉貴がベタベタしとった。
その後梅が枝餅っていう太宰府天満宮の有名なつぶあんが入った餅と甘酒飲んで帰った。
父ちゃんの土産にその梅が枝餅を持って帰る。
福岡の人間は全員知っとる有名な餅なんよね。
松永も俺も甘い物が好きやないけどこれは結構いける。なんか懐かしい味だ。
帰って来てから実家でやることがない。
ゲームもないし俺の部屋は俺が出て行ってから片付けられてしまって遊べるもんが何もない。
それに福岡ってこれと言って観光出来るようなとこないんよね。
東京みたいに街ごとに見どころあるっていうかいろんなところに遊ぶところがあるってわけじゃないんよ。
天神ってところに一極集中で全部そこに集まってる感じ。
東京みたいに新宿、渋谷、池袋みたいに駅周辺が栄えて町が出来てるってわけじゃなくて天神だけに全部集まってるんよね。それ以外の駅はほんとなんもなかったりするんよ。
やけん週末の夜とか祝日とか天神とかに人が集中すんの。そこしか遊ぶ場所がないってことなんやろうけど。
「家いてもつまらんやろう?どっか遊び行く?」
「いいよ。またどーせラブホとか行きたがるんやろ?」
「いいやん。楽しいやろ?」
「どうしてそうなんの。別にいいよ。僕長野みたいに外に出たがる人間じゃないし。部屋でぼーっとしてても平気」
「つまらんやろうもん」
「長野がつまらないんやろう?どっか行く?」
「うん。どっか行こう」
「分かった」
松永と電車に乗って天神に出る。
目いっぱいお互い爽やかな格好をした。
嫌がる松永にもオシャレさせた。
二人でビブレというデパートみたいな建物の1階にあるシアトルコーヒーっていうオープンカフェでお茶をする。
イケメン二人でお茶をしていると気持ちいい。
俺は見られたがりなところがあると思う。
そこは否定せん。
表面には出さんで爽やか演じてるけど俺はそういうのが気持ちいい。
松永連れて二人の姿じーっと見られたりは東京でもあったけど福岡は結構露骨に見て来るところがある。東京の女は結構コソッとチラチラ見て来るイメージやけど福岡は積極的なのかガン見して来る。土地柄出るなぁ思う。東京が地元って人間はほとんどいないんやろうけどね。人格とか性格まで形成するもんなんかね?
オープンカフェの前を通る人間に見られるのが居心地悪いのか松永が「ズズズッ」とキャラメル系の飲み物飲みながら拒絶発揮してた。
お互い性格正反対なんやけどこうもうまくいく。
「ラブホねっかなー」
「またそれ?」
「だってさー......」
「他にやることないん?」
「それ大切!!」
「はいはい.....前にあるジュンク堂に寄っていい?」
「いいよ」
ジュンク堂っていう本屋に寄る。
松永はよく通ってたらしい。
松永の住んでた離れのあるところ天神に自転車で来れるからなぁ。
専門書がたくさんあるから好きだったと話す。
俺は松永について小難しい本棚見ていてもつまらんので漫画の階に行って漫画を何冊か手に持って1階のレジでお互い本を買う。
「僕が出すよ」
「いいん?」
「うん。食事の時におごるって言ったやろ?今度僕」
俺の漫画の代金も一緒に松永が払う。
「コーヒー代でよかったのに。悪いな。こんなに本たくさん選んどって」
「いいよ。食事代いい値段したんやけん高めじゃないとつり合い取れんやん」
つり合いか。
性格正反対やけどこうしてつり合いお互い取ってるんかな。
お互い努力して来たんかなぁ。
「帰ろっか」
「うん。帰ろう」
ラブホは諦めた。
諦めて家に帰って俺は漫画読んで松永は本読んで。
お互い無言だったけど苦じゃなかった。
無言が苦痛じゃない位そばで生きて来たんやろうなぁと本に集中している松永を見て思った。
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