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「あっやべえ」
小さな公園でブランコに乗っているウタちゃんの背中を押していたら、東條さんの少し焦ったような声が聞こえてきた。手はそのままで、視線だけベンチに座っている東條さんに向ける。
落ち着きなくその場に何度も座りなおしたり、ベンチの下を覗き込んだり、当たりを見回したりしている。
「どうしたんですか?」
不思議に思って声を掛けてみるとなんでもないと渋い顔をされた。なんでもないことはないでしょう。
そう言おうと思ったけど、なんだか深刻な表情だったので黙っておいた。訊かれたくないことなのかもしれない。ならばわざわざ触れないほうがいいだろう。
それからも東條さんの顔は和らがず、立ったり座ったり公園内を無意味に歩き回ったり、落ち着きのない様子を見せ続けた。
ウタちゃんが帰る時間になり、無邪気に親の元へ走っていく姿を見送った。
俺はズボンの汚れを振り払って東條さんをこっそり伺った。もうウロウロはしておらず、ただ眉間の皺を濃くして重い沈黙を貫いている。
時々、この公園でウタちゃんと東條さんと出会って遊んだ後は、東條さんが俺を家にまで送ってくれるのが通常なのだが、東條さんは動かない。
「東條さんどうしましたか?帰らないんですか?」
「悪いが、先に帰っててくれねえか」
東條さんの口から出て来た言葉に思わず目を見開いてしまう。
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