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孤独
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暗く、アンデッドモンスターが多く出現すると言われる森の奥深くにある誰もいない広い古びたお屋敷。
苔に侵食された塀、ツタまみれの門、雑草だらけの庭。
大きな扉の玄関には錆びて壊れた約立たずの大きな南京錠。
中に入ってすぐの広間は薄暗く、絨毯は砂と埃まみれ。幾何学模様の壁紙は黒ずみ所々破けている。
広間の階段を上った所に、一段と大きく豪華な装飾のドアがある。
そのドアの奥の広い部屋。
そこに男は一人たたずんでいた。
短髪のくせっ毛に少しつり目の橙の瞳。
グレーのシャツに黒いベストとズボン。胸元の赤いスカーフを金色の髑髏飾りで止めている。
男は暗い部屋でホウキにもたれ掛かりながら今日も大きなため息をつく。
部屋には彼のため息だけが静かに滲んで消えた。
男の名はカノル。
元は優秀な冒険者をしていたが、訳あってここに住むアンデッド族と共に暮らし使用人として働いていた。
そして、この屋敷の主、アンデッドの王ドストミウルと愛の契りを交わした最愛の人間である。
しかし、魔王の配下であったドストミウルは勇者に破れ手下のアンデッド共に姿を消してしまった。
...ドストミウルが敗北したあの日、俺はドストミウルの核を手に必死で屋敷まで逃げた。
逃げ込んだ屋敷は、夜中だと言うのに物音の一つもしなかった。何もかけ回らない、何も飛び回らない、何も蠢かない。
俺はその静寂にひどく絶望した。
誰もいないと分かっていても何度も屋敷の中をさ迷った。全ての部屋を巡り、全ての棚を開けた。ただそこに求めたものは無く、扉を開く度にただ痛いだけの事実を思い知らされるだけだった。
悪夢に邪魔をされて睡眠も満足に取れず、布団にくるまって孤独に震えた。
屋敷に居た皆のことを、アイツの事を考えては胸を締め付けられた。何度も死ぬ事を考えて諦めた。
壁に何度も頭を打ち付けては決して醒めることの無い現実に戻る。
そんな日々を繰り返した...
数日して新しく部屋を見つけた。
確かに分かりずらい場所ではあったが、しばらく屋敷にいたというのにまだ知らない部屋があった事に自分でも驚いた。
鍵のかかっていない小さなドアを開ける。
部屋には机と椅子だけがあった。机の上には小さなポシェットと手紙。そこには俺の名が書かれていた。
『 親愛なるカノルへ
ドストミウル様の言うことをお前は素直に聞かないだろうと思いこれを残す。
食料はキッチンと、倉庫に保存食を多めに備蓄してある。しっかり食事はとりなさい。
必要なものがあれば人の町に出なさい。お前用に馬を1頭買っておいた、裏庭に放ってあるので使いなさい。
金は旦那様の部屋と儂の部屋にある、好きに使いなさい。
旦那様が敗れた際の物入れを作ったので使いなさい。
お前が生きる事を旦那様は望んでいる、
どうか旦那様を憎まぬよう。
また会えるか分からないが、また会えるのを楽しみにしている。
執事長 ヂャパス』
そんな部屋の主からの手紙だった。
それを読んでまた堪えきれないほどの涙が溢れ出た。もう何度も泣いて枯れ切ったと思った涙が信じられないほど出た。
普段口数も少なくて怒られることばかりだった執事長だったが、こんなに俺の事を考えていてくれたなんて思いもしなかった。
俺が生きているという事を望まれているのであれば、とことん生きてやろうという気になった。
どうにかしてドストミウルを復活させ、アイツにひと泡吹かせてやればいいんだ。
俺はその日から泣くのをやめた。
ヂャパスお手製のドストミウル核の入れ物を首にかけ、使用人の服を引っ張り出し屋敷を掃除した。
いつも掃除していた場所、他の使用人達がやっていた場所、ドストミウルの部屋。一人でやるには大変だったが、何もしないでいるよりは百倍以上にマシだ。
裏庭の馬を捕まえて手懐けた。気づくのが遅れてしまったが元気でいてくれて良かった。
町へも何度か出かけた。
食料とその他生活用品の調達と、情報収集だ。買い物はなるべく目を合わせずに、人とは深く喋らない。変なやつに絡まれなければ何事もなくやり過ごすことが出来た。
ドストミウルが敗れたことは町でも噂になり、魔王討伐間近と町は活気づいていた。
部屋で時よりドストミウルの核を眺めた。
丸い水晶のようなそれは、変わらずただその中心に混沌とした黒を浮かべた。
何がどうすればドストミウルが復活するのか、俺はひとつの手がかりも掴めずにいた。
もしこのまま俺が一生を終えたら、後に復活をしてドストミウルは悲しむだろうか。
今の俺と同じだけかそれ以上に苦しむだろうか。
そんな事を考えながら少しだけ笑えていた。
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