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突然の来訪
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今日は珍しくよく眠れていた。
核を手に持ったまま胸元に抱えるのようにして眠っていると、核が脈打つように動いた気がして目を覚ました。
気のせいか寝ぼけていたせいだろうと思ったが、起き上がって核を見つめてみる。
核の中には今までになかった黒い水のようなものが溜まっているように見えた。それは球体の半分にも満たない程だったが、確実に昨日までは無かった変化だ。
「なんだろ、これ。」
それが何なのか分からなかったが、良い兆しである事を俺は願うしかできなかった。
しばらく月日が流れたある夜、一通りの掃除を終えて部屋から夜空を眺めていた。
こんな夜空をドストミウルと眺めた事もあったっけな、なんて思い出す。
アンデッド達が消えてから数ヶ月が過ぎようとしていた。当初は辛い事が多かったが、一人でいる事にもだいぶ慣れてきた。
眠れなかったり気分が落ち込む事はあるが、命を断つことを考えたり、辛くて何も手につかないという事は少なくなった。
そんな夜の事だった。
部屋にいた俺は外から物音が聞こえた気がして、窓から庭の方を見下ろした。
暗くてはっきりとは見えなかったが、人為的な音と、門が開く音が確かに聞こえた。
俺は窓から自分の姿が見えないように、すぐ横の壁に背を当てて隠れる。
あの日から誰かが尋ねてきたことは無い。
ドストミウルの核を狙いに来た勇者の仲間か、森で迷った人か、それ以外か...
分からなかったが警戒するに越したことはない。俺は直ぐに弓矢を手に取ると、音を立てないように部屋を出て階段を降りた。
玄関口の広間に出て、俺は物陰に身を隠した。
弓に矢をかけ、いつでも攻撃が出来るように準備をする。
ドアの向こうに足音と気配を感じた。
弓を握る手に力を込める。
コンコンと二つ規則のいいノックがなる。
俺は息を殺した。
「誰もいないのか、ここに死の王の魂を持った人間が居るだろう。出てきなさい。」
低く大きな声はドアの向こうからでも空っぽの広間に響いた。
何故か分からないがそいつは明らかに俺の事を指して出てくることを要求した。俺がドストミウルの核を持っているなんて知っているやつはそうそう居ないはず。
ただ、誰であれこれを渡すわけにはいかない。
俺は二歩後ろに下がると弓を引いた。
突然、鋭い音がしたと思うとドアの鍵が壊された。直後に強く蹴り飛ばされた扉は、月明かりと共に来訪者を受け入れた。
辺りをぐるりと見回した来訪者は、暗闇の中だというのに物陰にいたしっかりとカノルを見つけ出した。
月明かりにてらされたその姿は、予想に反し人間ではなかった。
人のような体は有しているが、顔は鱗で覆われており、互い違いに動く飛び出た目でこちらを見つめていた。
「武器を納めろ人間。」
「何もんだよアンタ。」
「武器を下ろせというのが聞こえないのか?消すぞ。」
消すというのが冗談ではないという気迫を感じ、俺は弓を握る手を緩めた。
「貴様、ドストミウルの魂を持っているだろう。魔王様がお呼びだ、早く来い。」
「魔王...?アンタは魔王の手下ってことかよ。」
「早く来い。これ以上時間をかけるなら消すぞ。」
重みのある声でそう言われて、俺は弓を背にしまった。核を胸元で握りながら、不審なトカゲ男の前に歩み出た。
長身のそいつは俺を見下ろした。
「魂はどこにある?」
俺はそいつを睨みながら、胸元の袋を握りしめた。
「渡さない。」
「別に私は要らない。馬車に乗れ人間。」
そいつはくるりと向きを変えると門の方へ向かい歩き出した。
俺はしばらくその背中を見つめてから、駆け足でそいつを追った。
外に出ると夜空を一段と暗く感じた。
魔王の手下のトカゲ男の馬車に乗ってからは、何故か窓からも星が見えなかった。トカゲ男は常に退屈そうな顔をしながら肘をついていた。
どれくらい走ったかも、どちらの方角に向かっているのかも分からなかったが、しばらくして馬車は止まった。
「降りろ。」
そう言われて降りると、眼前には黒く大きな城があった。
ドストミウルの仕事場の城もでかいと思ったが、比べ物にならないくらい大きくて禍々しい城だ。
「中で魔王様がお待ちだ。早く進め。」
鱗顔の化け物はまたスタスタと進み始めた。
俺は後を追った。
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