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魔王の話し相手②
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魔王に導かれるまま、俺は城の地下室へと進んだ。
思い扉を魔王は手を触れずに開けた。
石の壁、反響する音、その暗く寒気がするような部屋には、黒い瘴気が立ち込めており城の禍々しさを集めたような部屋だった。
「人間の君にはあまり良くない場所だろうから、手短に済ませよう。死の王をここへ置きなさい。」
部屋の中心にある四角い台座を示されて、俺は歩みを進めた。台座に近づくに連れて瘴気が濃くなり、体と気分が重くなる。口元を袖で塞ぎながら核を台座の中心に置いた。
後ずさるように離れると、魔王は手をかざして呪文を唱え始めた。
部屋はたちまち視界がなくなるほど黒く染まり、息が出来なくなった俺はいつの間にか意識を失っていた。
何度も何度も一人になる夢を見た。
部屋中のどこを探しても、世界中のどこを探しても、誰一人いない孤独な世界。
声を上げても、泣き腫らしても、何を破壊しようと、自分を傷つけようと、何をしようと誰からも何も言われない世界。
夢が覚めても大して変わりのない日々に、俺は何度も死を愛おしく思った。
悪夢を見たわけじゃないのに、俺はベッドから飛び上がるように目を覚ました。
何か大切な事をしなくちゃいけないんだ。
...なんだっけ。
そこは見知らぬ部屋だった。ベッドとテーブルがあるだけの、簡素で小綺麗な部屋。
ここは...魔王の城だ。
「ドストミウル!」
胸元に核はない。
布団から飛び出て目の前にあった扉を開けた。
扉の横にいたトカゲ男が、驚いたように一歩身を引きこちらを見た。
「あ、アンタ...ドストミウルはどうなった?魔王はどこ?」
男はこちらを睨むとペロリと舌なめずりをした。
「やかましい奴だな。ついてこい。」
ゆっくりと歩き始めたトカゲ男に苛立ちを覚えつつ、着いてゆく。
「あの後どうなったんだよ、アンタ知ってんのか?ドストミウルは...」
「五月蝿いぞ人間。少しは黙れ。」
振り向きもせず苛立ちも隠さずにトカゲ男は呟いた。城の中を知らない以上俺はコイツについて行くしかない。
「なあ...」
そう話しかけた時男は急に止まり、左手にあった扉の前に立った。
男は先程のように規則正しいノックをすると、中からの返事を待ってから扉に手をかけた。
いても立っても居られない俺が押し気味に扉に近づくと、トカゲ男はまた酷くこちらを睨んだ。
「くれぐれも魔王様に失礼のないように。」
「俺の知ったこっちゃねぇ」
俺が睨み返すとトカゲ男は更に目を細めた。
扉が開くと駆け込むように部屋に入る。
先程の応接間よりやや広い部屋だ。テーブルに向かい合うソファー、片側にはやはり魔王が座っていたが、その向かいにはよく知った骸骨頭が座っていた。
「ドストミウルっ!!」
思わず叫んで駆け寄ると、その胸に飛び込むように崩れこんだ。ドストミウルもまた少し立ちあがるように浮くと、駆け寄ったカノルを抱きとめるように支えた。
「...すまなかったな、カノル。君には辛い思いをさせた。」
ドストミウルが細い指でその頭を撫でる。
カノルは、言いたい事の言いたい事のひとつも言えないまま、涙と嗚咽で声を上げていた。
「カノル、長い間一人にしてしまって本当に悪かった。また一緒に屋敷に戻ろう。」
カノルはドストミウルの胸に縋りながら頷いていた。
魔王はその光景を少し目を細めて見つめていた。
「よかったね、死の王。」
「うむ。今回は手助けをしてもらってすまなかった。」
「勇者は退けたからね。僕が世界を支配する時が来たんだ、まだ使える四天王には活躍してもらいたいんだ。」
「...どうしてもこの役をおろしてはくれないかね。」
「ああ、ダメさ。僕が魔王として敗れない限り、貴方には四天王の役についていてもらうから。」
「...承知した。今回の恩もある事だ、どうしてもというなら抗いはしない。」
魔王は満足そうに笑った。
「彼のために身を引きたかったろうけどね。」
「...」
呼吸が整ってきたカノルはドストミウルから少し体を離すと、突然ドストミウルの硬い頬を思い切り拳で殴り付けた。
「カノ...」
「人間の所に戻れとか適当な事抜かして、後始末も付けずに勝手に消えやがってこのクソ野郎。俺がどんな思いで居たかなんてお前に察しられたくもねぇ。ヂャパスの爺さんの方がよっぽど俺の事分かってくれた、後でよく頭下げときやがれ。許してくれなんて言ったって絶対おめぇの事なんて許さねぇからな、ドストミウル。」
呼吸を乱し、涙と鼻水を拭いながらカノルはドストミウルを睨みつけていた。ドストミウルはただその揺れる瞳を見つめていた。
「...だから、もう、どこにも居なくなんなよ。」
カノルは小声でそう付け足した。その瞳からはまた大粒の涙が溢れだしていた。
ドストミウルはその体を再び強く抱き寄せた。
それを見ていた魔王は手を叩いて喜んだ。
「はははっ、実に良いものを見せてもらったよ。死の王、そしてカノル。僕には出来なかったけど、その愛が存在することを確認できて僕は非常に満足しているよ。」
カノルはその異様な反応に目だけで魔王を見た。
「後は帰って好きにやってくれるといい。ああ、そうだ一つだけ君にはお土産をあげたいんだ。」
魔王は勇者のように穏やかな顔でにっこりと笑っていた。
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