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魔王の話し相手③
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俺たちは魔王に導かれるまま、だだっ広い石壁の部屋に入った。
そこで魔王はあるものを俺に差し出してきた。
「君は弓の名手だからね、ひとつプレゼントだ。」
そう言って差し出されたのは一挺の黒い弓だった。俺がいつも扱うものよりやや長く、闇よりも深い黒色の弓柄には銀色の装飾が控えめに付いている。
差し出されたものを受け取ろうと手を伸ばそうとした時、ドストミウルが俺の前に割って入った。
「危険なもの...ではなかろうな。」
それを聞いて魔王は口の端を釣り上げた。
「そうだったら、貴方は僕を殺すかい?」
ドストミウルはしばらく魔王を睨んでいるようだった。
さっきから見ていても同じ勢力だからって仲がいいって訳じゃ無さそうだ。確かに魔王軍の奴らはどいつもこいつも我が強そうで統率するには非常に面倒そうだと思う。
「カノル、君の闇の魔力適正値は?」
魔王が体を傾けてこちらを見た。
正直嫌な質問だ。
「...にっ、20、だけど。」
魔王の眉が上がるのが見えた。
「勇者部隊に選出された者にしては随分とお粗末な数字だね。」
「うるせぇ!魔法は苦手なんだよ!からかうなら帰るぞ!」
これだから嫌なんだ。俺は魔法が苦手だから他の勇者部隊の奴に比べたら、魔力や適正値は格段に低い。これで何度不審な顔をされた事か。
「ごめんね、君は実力派だったね。素晴らしい事じゃないか。」
魔王は心のない笑顔を取り繕って見せてから、ドストミウルに弓を渡した。
「危険かそうでないかは貴方が確かめるといい。」
受けとったドストミウルは手に取った弓をしばらく眺めていた。
「やばそう?」
俺はドストミウルの横に周り弓を覗き込んだ。
「いいや、闇属性質の強い武器ではあるが、特別異質な感じはしないな。」
「持っていい?」
ドストミウルはなんだかんだ興味津々に弓を見つめるカノルの瞳を見つめた。
「気をつけてくれカノル。何かあったら直ぐに手放すといい。」
「うん。」
カノルは弓を恐る恐るゆっくりと手に取った。
少し重みはあるが、変な魔法や呪いがかかっている感じはない。
「試し打ちしてみるといいさ。」
魔王が石壁の一つに手をかざすと、その壁が沈むように下がり始めた。壁が音を立てて下がりきるとその向こうに何匹か下位モンスターが太い丸太に縛りつけられていた。
「アレを打てって、アンタ達からしたら仲間じゃないの?」
「低能な彼らからしたら名誉な仕事だと思うけどね。それとも人間でも括りつけておけば良かったかな。」
カノルは眉をひそめた。
「ま、俺はどっちでもいいけど...」
魔王は横から矢を差し出した。
俺はそれを受け取ると弦に掛け、狙いを定めて弓を引く。周囲に闇魔法が発生するのを感じた。一つしかない目と、一つ欠けた指、練習はしているが現役の時よりは確実に腕は落ちている。それでも的には当てる気でやらなくちゃ意味が無い。
気を集中させて俺は矢を放った。
矢は音を立てて空気を裂いて飛んだ。
「なっ...」
カノルが思わず声を出したのは的を外したからではなかった。
俺が放った矢は確かに丸太には刺さった。でも、モンスターの頭をかすめて本体には当たらなかったのだ。
なのにだ、それなのに関わらず、その一面に的として縛りつけられていた数体のモンスターの全てが、その一撃で絶命していたのだ。矢が刺さった丸太から離れていた物も含めて全てだ。
俺の指先から落ちた弓が音を立てて床に落ちた。
「カノル、体に異常はないか!?」
すぐ横にいたドストミウルが体を支えるように近寄ってきた。
「うん、俺は平気そう。でも...」
俺が魔王を見ると、魔王はにこやかに微笑み返してきた。
「いい威力だろう?魂を吸い取る弓さ。」
「この性能では、少なからず使用者にも害はあろう。」
ドストミウルは睨みつけるように魔王を見ていた。
「アンデッドと共に暮らすのは人間に害がないことかな?」
魔王はまだ微笑んだように顔を緩めながらドストミウルを見返していた。
「...」
「んん、まあ使わなきゃいい話だろ。もういいなら帰ろうぜドストミウル。長居したってろくな事はねぇ。」
「その通りだ。」
ドストミウルは俺の顔を少し見てから、もう一度魔王に向き直った。
「世話にはなったが、改めて礼は言わないことにしよう。」
「働きで返してくれれば十分だよ。ご苦労さま、死の王。よかったらまた遊びに来てくれカノル。」
魔王は大して表情も変えずにそう言った。
こうして、俺たちは魔王の城を後にした。
また遊びに来たいとは思わないが、きっと彼は彼でこの世界を恨みたくなるような孤独を抱えているのだろう。態度には出ないが、やはり魔王というだけあってその異常さと深い闇を感じた。
何はともあれ、ドストミウルは復活したのだ。俺の苦労も報われた訳だ。
疲労と緊張からか、帰りを送ってくれた魔王の部下が運転する馬車の中でカノルは眠りについていた。
酷く揺れる馬車の中、ドストミウルの骨の体を枕にしていたにも関わらず、カノルはひとつも悪夢を見ることは無かった。
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