アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
迷子のアンデッド②
-
「...どうやら彼女は自分がアンデッドであるという事や、どうしてここに来たかと言う記憶を失っているようです。」
ヂャパスは主にそう説明した。
森で出会ったアンデッドの少女を連れて俺たちは屋敷へと戻った。俺が助けたいと言ったのもそうだが、自らの配下ではないアンデッドが森にウロウロしているのもあまりいい気分ではないらしく、その素性を知るべく屋敷で事情聴取する事になったという訳だ。
小さな客間に少女を通しヂャパスが事情を聞いた。
俺は何かあったら危険だからと部屋の外に出されドストミルウルとヂャパスの報告を待っていた。聴取を終えたヂャパスが部屋の外に出てきてドストミウルに報告する。横から聞き耳を立てて聞くと危険な感じでは無さそうだ。
「あの子ってなんて名前?」
俺は一通り報告を終えたヂャパスに尋ねた。
「ビアリーだ。今までどうしていたか記憶が曖昧らしいが、名前だけは覚えていた。」
「ねぇ、また会ってみてもいい?」
ドストミウルを見上げて聞いてみると、屋敷の主は少し考えてから頷いた。
「いいだろう。私も彼女と直接話をしたい。一緒に来なさいカノル。」
「わかった。」
ドストミウルが客間のドアを開けて部屋に入る。俺もそのすぐ後をついて行った。
少女は小さなソファーの真ん中にさらに小さくなって座っていた。
長くぼさぼさのブロンド髪に、裾の擦り切れた地味な色ワンピースを着ている。十歳前後だろうか。ドアの音を聞いてこちらに向いた目はまつ毛も多いぱっちりとした綺麗な青い瞳だ。
あのときは普通に人間だと思っていたが明るいところで見ると屋敷のアンデッド同様に青白い顔をしていた。
ビアリーという名の少女はドストミウルの姿を見て少し身を小さくしたように見えた。
少女が座るソファーの後ろで待機していた使用人の一人バーバラは、ドストミウルに一礼してから少女の近くに体を寄せて優しく声をかけた。
「ビアリーちゃん、あの方がここの一番偉い人よ。怖がらなくてもいいわ。」
バーバラはふくよかな老女のゾンビだ。気立てがよく面倒見もいい、ちょっとお節介なくらいの婆ちゃんゾンビだ。
ドストミウルが目の前まで来ると少女はその背の高い骸骨を見上げた。
「娘よ。」
少女は眉を八の字に上げてその骸骨を見つめた。
「ここは私の領地だ。記憶が無いとはいえ、勝手に侵入されては私もただで返すわけには行かない...」
そんな事を言う死の王様を俺は思わず蹴飛ばした。
「あのなぁ、怖がってんのに余計怖がらせるようなこと言ってどうすんだよ!仮にも子供だぞ!」
「アンデッドである以上必ずしも見た目の年齢と精神年齢が一致するとは限らん。素性が知れぬ以上は警戒するに越したことはない。」
確かにドストミウルが言うことが理解できない訳では無いが、今にも泣き出しそうな顔をしてドストミウルを見つめる少女をこれ以上脅す必要があるのだろうか。
「なあ、ビアリーって言ったっけ。」
俺が少女に近づこうとするとドストミウルに服の裾を掴まれて止められた。
俺が思いり睨みつけると、ドストミウルは首を横に振った。
「わかった、カノル。君が彼女を心配する気持ちは理解出来る。手を差し伸べてやる前に、一つだけ彼女のアンデッドとしての能力を私に探らせてくれ。」
「何する気だよ、変な事すんじゃねぇぞ。」
「私の能力で彼女の能力を分析するだけだ。アンデッドモンスターとしての魔力値や位を探り、危険がないか判断する。」
俺はしぶしぶドストミウルの横に戻った。
「カノルちゃんは子供にやさしいのね。」
バーバラが俺の顔を見て微笑んだ。
「コイツが厳しすぎるだけだろ、どう見ても。」
俺はドストミウルを親指で指した。
「旦那様もカノルちゃんの為に特別に警戒しちゃうのよ。分かってあげて。」
そう諭されて俺はため息をついた。
ドストミウルは少女に向けて手をかざすと、その手に魔力を溜めた。少し風が巻き起こると少女は目を瞑って体を強ばらせた。
ドストミウルの魔法がやんわりと少女の体を包んだ。
しばらくするとドストミウルは魔法を解き、手を下ろした。
「魔力値は低い、下位のゾンビアンデッドだ。特別な能力も無く、身体能力も見ためのそれと変わらないくらいか...」
「つまり、ここの屋敷のやつで言うとどのくらいのレベル?」
「うむ、使用人と変わらんだろう、戦いには向かない。危険度は極めて低そうだ。」
俺はそれを聞いて一安心した。
ドストミウルも俺の服の裾を離した。
「娘よ、お前が危険では無いことは分かった。だが、ここに来てしまった以上野放しにしておく訳にもいかん。」
「もっちろん、面倒見てあげるよな旦那様?」
俺は口の端を上げながら首を傾げてドストミウルを見上げた。
「処遇はしばらく様子を見てから決めよう。記憶が戻る可能性もある。バーバラ、ヂャパスと共に彼女を監視しつつ面倒をみてやれ。」
「分かりました旦那様。」
バーバラは優しい笑顔でおっとりと頭を下げた。
「良かったなお前、もう怖がんなくて良いからな。俺はカノル、ここで働いてる一人だ。お前達と違って人間だけどよろしくな。」
俺は少女の目の前に座り込んでそう微笑みかけると、少女は驚いたような顔をしてからなにも答えず少しだけ口元を緩めた。
「なあ、ビアリーって喋れないの?」
俺がそう聞くとビアリーは首を傾げた。
「あら、カノルちゃんには聞こえないのね。さっきからこの子お喋りしてるわよ。」
「はあ?俺何にも聞こえないけど。」
それを聞いていたドストミウルが口を挟んだ。
「口元で喋っている訳ではないからか...恐らくアンデッドにしか聞こえない魔力伝達のようなもだ。」
「アンデッドだけ?俺は人間だから聞こえないってこと?」
「恐らく、そういう事だ。」
ドストミウルはゆっくり頷いた。
俺は少しがっかりして肩を落とすと、少女は心配そうに俺の顔を見つめていた。
「俺にお前の声は聞こえないみたいだけど、まあ心配な事があったら頼ってくれよな。よろしくなビアリー。」
俺が手を差し伸べると、ビアリーもゆっくりとその手を握った。
恐る恐るで力の弱いその手は酷く冷えていたが、しっかりと握り返すと少女の表情はまた少し柔らかくなったように見えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 70