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迷子のアンデッド③
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ドストミウルが安全を確認して客室を去った後、俺はバーバラと一緒にビアリーと少し話をしていた。
「なあ婆さん、ビアリーを風呂に入れてやってくれよ。あと着替えも。こんななりじゃ可哀想だろ。」
「そうよね。私も思っていたの...でも子供用のお洋服なんてあったかしら?」
ビアリーは森で倒れていたまま、ぼさぼさの髪にボロボロで泥のついた服装のままだ。女の子がこれじゃあ可哀想すぎる。
「あっ、ゴルゴア先輩のいらない服を貰うとか?」
ゴルゴアというのは使用人の一人で、少女のような姿をしたおっかない女だ。何がおっかないって、いつも睨んでくるし、口調はキツいし冷たい。見た目で言えばビアリーより少し年上くらいに見えるのに、中身は女執事長のように厳しく堅苦しい奴だ。
「それは良いかもしれないわ!カノルちゃん聞いてきてくれる?」
「馬鹿言え!男の俺がゴルゴア先輩にそんな事聞いてみろ、変態趣味と勘違いされて叩きのめされるだろうが!」
「そうかしら?ビアリーちゃんをお風呂に入れてる間に頼もうかと思ったんだけど、アリアちゃんにお願いしようかしら。」
「頼むからそうしてくれ。」
悲痛な顔をして俺はバーバラにお願いした。
「何か良いのが見つかるといいけどね。」
「せっかくだし夜が明けたら俺、ドストミウルと街に服を買いに行ってくるよ。なあビアリー、好きな色とかある?やっぱり女の子らしい色が好きか?」
俺が顔を覗き込むとビアリーは少し考えるように首を傾げた。
「赤と紫って言ってるわよ。あと、カノルちゃんの好きな色は?って聞いてるわ。」
ビアリーの声が聞こえない俺に、バーバラはビアリーの言葉を伝えてくれる。
「俺?俺はね青がすき。俺の親父も青い髪だったし、俺もちょっと前はもっと濃い青髪だったんだけど、化け物屋敷のストレスで白くなっちゃって直らなくなっちゃったんだ。」
ビアリーはじっと俺の髪を見つめた。
「ああ、別にここにいる奴らが皆恐ろしい化け物って事じゃないぜ、慣れるまでに苦労したってこと。だんだん仲良くなれば皆良い奴だから安心しろって。」
俺はビアリーの頭を柔らかく叩いた。
ビアリーは少し笑うと、一度バーバラの方を見た。
「ああ、私?バーバラっていう名前だけど、そのままお婆ちゃんって呼んでくれてもいいわよ。そこのお兄さんはカノルちゃん。人が多いから、覚えられなかったらまた聞いてね。」
「え?ビアリーは俺の事なんか言ってる?」
嬉しそうに聞くカノルを見てバーバラは余計に目じりのシワを深めて笑った。
「優しいお兄ちゃんの名前をもう1回教えてって、あと貴方にありがとうって言ってるわ。骸骨のおじさんは怖かったけどカノルちゃんが居てくれて良かったって。」
カノルはそう聞いて思わず頬を緩めていた。
「そっかぁ、良かった俺の事怖がらなくて。あの骸骨のお化け怖いだろ。でもな、本当はちょっとアホでドジなんだぜ。王様だから偉そうでお堅いけど、悪いやつじゃないよ。」
ビアリーは不思議そうな顔をしてカノルを見つめた。
「ふふっ。お兄ちゃんは王様と仲良しだから、お兄ちゃんも王様なの?ですって。」
「あー...。俺はねただのここの職員なんだけど、まあ仲は良いんだよね。んー、説明すると長くなるんだけど...」
「ビアリーちゃん、カノルちゃんは旦那様の特別な人なのよ。私と同じお仕事はしてるけど、旦那様とは一番仲良しなの。」
バーバラのそんな話を聞いて驚いた顔をしてから、ビアリーはまたこちらを見た。
「あん...まあ、大体そんな感じ。ドストミウルに脅されたら俺に言ってな。俺の言うことならある程度は通ると思うから。」
「お兄ちゃんは骸骨の王様のこと好きなの?ですって。」
「好きって...」
照れて言葉を詰まらせたカノルを見てバーバラはふふふっと笑った。
「カノルちゃんからしても仲良しなの?怖くないの?って事よ。」
「あっ、そういうね。うん好きだし怖くないよ。何だかんだ優しいしね。」
そう聞いてビアリーも安心したように頷いた。
「さあビアリーちゃん、あんまり綺麗じゃないんだけど下にお風呂があるの。一緒に行ってみましょうか!」
「ああ、よろしくな婆さん。ビアリー、よく綺麗にしてもらえよ。」
頭を撫でると、ビアリーは今までで一番いい笑顔を見せてくれた。
日が昇り始める頃、俺はドストミウルの部屋に戻った。
部屋で仕事をしていたドストミウルに駆け寄ると、声をかけてまじまじと顔を見つめてやる。
「なあドストミウル、今日の昼間一緒に街に行ってデートしようぜ!」
ドストミウルは笑顔でそう言う愛しい人間を何も言わずにしばらく凝視していた。
彼から進んで街に行きたいなんて何か奇跡でも起きたのではないかというくらい珍しい事だ。しかも普段そういう関係である事を表沙汰にしたがらない彼の口からデートなんて惚気けた言葉が出ている、一体どういう風の吹き回しだろうか。
「行くの?行かないの?」
「い、行こう!何か目当てのものでもあるのかね。」
「ビアリーの服の調達だよ!さっきバーバラに体と髪をを綺麗に洗ってもらって、古着を直して着せてやったんだけど...あの子めちゃくちゃ可愛いのな!でもやっぱ適当なものじゃ可哀想だし、髪飾りとかもっと綺麗な服とか着せてやりたいだろ、だから一緒に買いに行こうぜ。」
カノルは少し照れながら嬉しそうにそういった。
ドストミウルはそれを聞いて高ぶった気持ちが少しだけ治まるのを感じた。
「なる、ほど。」
「何その不服そうな反応。」
「...何故君がそこまであの娘に肩入れするのかと考えてしまってな。」
「なにそれ、子供相手に嫉妬してんの?ずいぶん器のちいせえ王様じゃん。」
カノルはからかうように笑いながらその顔を覗き込んだ。
「そうではない、私は...」
「ビアリーの不安そうな顔、アンタも見ただろ。」
カノルは少し悲しそうに笑った。
「記憶が無いって言うなら、何も分からない上に一人ぼっちなんだぜ。ここに初めて来た時の俺と一緒。ゲロ吐きそうになるくらい毎日訳わかんなくて、怖くて、不安になはずだ。」
「カノル...」
「今の俺にはアンタも執事長も使用人仲間もみんな良くしてくれるから寂しくないけどさ、あの子はまだそうじゃないだろ。」
切なそうに目を細めたカノルの頭をドストミウルは優しく撫でた。
「分かった。一緒に行こうカノル。今の人間の街で特別いい物は手に入らないかもしれないが、できる限りの物を探しに行こうじゃないか。」
「うん、そうしようぜ!」
日が昇った。
街へ向かう馬車の中、人の姿をしたドストミウルを相手に、俺はバーバラから聞いたビアリーの気になる事を話していた。
ビアリーを浴場で綺麗に洗ってあげたバーバラはこっそりと俺に教えてくれた。
「ビアリーちゃんね、顔も髪も傷のない綺麗なゾンビちゃんだなと思っていたんだけど...お洋服を脱がせてあげたら酷かったわ。お腹、というか内蔵がね、めちゃくちゃに刻まれていたの。目立たないように縫ってあげたけど、あれはきっと誰かに傷つけられたんだわ...」バーバラはそう言って辛そうな顔をしていた。
「恐らくだがあの娘は元人間で、死後、無意識のうちにアンデッドに変化したのではないかと思うのだ。」
「そういう事ってあるんだ。俺も死ねばアンデッドになれる?」
「それは断言できない。強い怨みや信念があるものがアンデッドになる事が多い。時々無いもの居るがね。それから、そうやってアンデッドになった人間はあの娘のように記憶が混濁してしまったり、人格が変化してしまう者がほとんどだ。」
「ふーん、万が一俺が死んでアンデッドになったとしても、性格とか考え方とか丸っきり変わったりして生きてた頃の俺じゃなくなるって事?」
「そういう事だ。」
ドストミウルは頷いた。
「それでアンタって俺の事アンデッドにするの渋ってたりするんだ。」
「うむ、否定は出来ないな。」
金髪のおじ様は困ったように笑った。
「ビアリーは腹の傷が原因で死んだ、というか殺されてアンデッドになった...?」
「そう考えるのが今の所妥当だという話だ。」
「ふーん。」
なんともいけ好かない結論に俺はしばらく眉間に寄ったシワを解けないでいた。
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