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少女の抱える闇①
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今日も酷い怒声を浴びせられる。毎日のことなのに一向に慣れることは無い。
髪を掴まれて家の中じゅう引きずり回された。大事にしたい髪の毛が途中で何度もちぎれる音がする。
そして最後はいつも殴られるのだ。
見えるところには絶対に跡は付けない。必ず服で隠れる場所だけ。
こんな人にどんな体裁が残っているのか分からないのに、その人は必ずそうするのだ。
...誰がそんな酷いことをするの?
私はとても怯えていた。
やめて、やめて...
...誰がそんな痛いことをするの?
私はとても震えていた。
やめて、やめて...
...誰がそんな苦しいことをするの?
私は叫んでいた。
『やめて...!やめて!お父さん!!...そんなもの持ってこないで、お願いだから、私いい子にするからお願いっ...』
殺さないで
私は、そう、泣きながら叫んだ。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
日が暮れ始めた頃、その叫びはアンデッドの屋敷に爆発音と共に響いた。
愛しい人の寝顔を布団で眺めていた屋敷の主は、すぐにその異変を感じた。
すぐにその元凶へ向かおうとベットを飛び出した。
「ドストミウル!」
不安そうな顔をして、横に寝ていたカノルがこちらを見つめていた。
「あの娘の力だ。いい予感はしない。君はここにいなさい、いいな?」
そう言い残すとドストミウルはすぐに部屋を飛び出して行ってしまった。
カノルは目を見開いたままドストミウルの出ていったドアをしばらく見つめていた。
が、すぐに起き上がるとベットの脇に脱ぎ捨ててあった服を着てその後を追いかけて走った。
強い魔力で圧迫されめちゃくちゃにされたのは、その日面倒を見ていたバーバラの部屋だった。壁、床、天井は大きく歪み、家具は原型を留めないほど粉々だ。
部屋から吹き飛ばされたバーバラは、体に木片がいくつも刺さったまま驚いた顔で少女を見つめていた。
最初に駆け寄ってきたヂャパスはバーバラを抱き抱えると、ビアリーから少し離れた場所へと移動した。
「何事だ、バーバラ。」
「分からないわ、起きたらこうなってたの。私は大丈夫よ、大事はないわだってアンデッドですもの。」
バーバラは驚いた顔をしながらそういった。
ヂャパスはその元凶の少女、ビアリーを見つめた。
ひどく歪んた魔力は彼女を中心に円を描くように広がっていた、ビアリーは部屋の中心で立つように浮かんでいた。ただ顔だけは力なく下がり俯いている。
「ヂャパス。」
主の声を聞きヂャパスはその姿に一礼すると、再びビアリーに視線を戻した。
「力の暴走か、自ら制御しているようでは無さそうだな。」
「そのようですね。私が来てからは動く様子はありません。こちらを敵視している訳でも無さそうですが...どうされますか。」
ドストミウルもしばらくビアリーを見つめた。
攻撃的では無い以上必ずしも危険因子とは言いきれない。しかし現状としては、バーバラは怪我を負い、屋敷の一部は破壊されている。害がないとは言えない。
「ビアリー...」
足音と共にそこに現れたのはカノルだった。
「カノル!来るなと言っただろう!部屋に戻りなさい!」
ドストミウルは声を荒らげた。
カノルは一瞬ドストミウルを見たが、悔しそうな顔を浮かべてビアリーに駆け寄ろうと走り出した。
ドストミウルはその体を細い指で掴み押さえつけると、部屋の隅へと運んだ。
「離せよアホ!暴走してるってんなら、話しかければ正気に戻るかもしれないだろ。」
「近づく事が危険だと言っているんだ!バーバラはあれだけ傷ついても死なんが、君は死ぬ。アレを落ち着かせるとしても君が出る必要は無い!」
「アレだと?てめぇはずっとビアリーの事名前ですら呼ぶ気がねえ非情な化け物じゃねえか!てめぇに何がわかんだよ!なあ!今のビアリーの顔、ちゃんと見たのかよ!あいつ...泣いてるじゃねえか。」
ドストミウルは暴れるカノルを押さえつけたまま少女を見た。
その項垂れる顔からは確かに涙のようなものが流れ落ちていた。
「アンデッドは涙を流さない...」
カノルは自らを抑える指を力いっぱいどかそうとしたが、その力は強く少しも動かなかった。
「畜生!この分からずや!ビアリーを傷つけるってなら俺を殺してからにしろ!てめぇがビアリーを傷つけて止めるってんなら、俺は一生アンタを恨んでやるからな!」
この手を離せば彼は死に至る傷を負うかもしれない、だがこの手を離さなければ彼は死ぬより辛い痛みを心に負うかもしれないのだ。
「なあ...あの子を...二度も殺さないでやってくれよ」
カノルは泣き出していた。
「ねえ旦那様、少しだけカノルちゃんに話をさせてあげてはどうでしょうか。」
声に振り向くとヂャパスに抱えられたままのバーバラがすぐ後ろにいた。
「昨日も寝るまでビアリーちゃんはカノルちゃんの事気にしてたし、また明日も会えるかなって楽しみにしてたんです。きっとビアリーちゃんの気持ちに一番寄り添えるのはカノルちゃんだわ。だから...」
「やめなさいバーバラ、それを決めるのは旦那様だ。」
ヂャパスはバーバラの言葉を止めた。
ドストミウルはバーバラを酷く睨んでいるようだった。少ししてからカノルの方を見る。
「カノル...。君をこのまま行かせれば君の気分は晴れるかもしれないが、君を失ったら私は彼女を恨むことしかできないのだ。」
「俺を行かせても自分に利点が無いっていいたいの?上等じゃねえか、自由にしてくれたら耳元で愛の言葉を囁いて、セックス何万回でも相手してやろうじゃねぇの!」
カノルはまだ落ちきらない涙を頬に付かせながら、挑発するように笑った。
ドストミウルはしばらくの間考え込んだ。
少女の起こした被害、傷ついた部下、腕の中でもがく大切な人間。
しばらくしてドストミウルはその指の力を緩めた。
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