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少女の抱える闇②
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ビアリーは尚も歪んだ魔力を纏っていた。
その部屋の中心で吊られた人形の様に浮いている。
カノルはゆっくりとビアリーに歩み寄った。
自分になにかできる確証がある訳でもない、上手くいく作戦がある訳でもない、それでも彼女の手もにぎらず放って置くことなんて許せなかった。
「ビアリー...」
一声かけても少女はピクリとも動かなかった。
「まだ、怖いんだろ。訳も分からない所で、誰も知らない奴ばっかで...」
カノルは真っ直ぐビアリーを見つめていた。
「さっきさお前に似合いそうな服、探してきたんだ。それから髪飾りとか、レースの付いたリボンも買ってみた。」
ドストミウルはその様子をカノルのすぐ後ろで見守った。
「嫌じゃなかったら、俺が髪を編んでやるよ。よく妹にしてたから得意なんだ。そしたら気に入った服を着てさ散歩でもしようぜ。」
ビアリーは俯いたまま少しだけ目を開いた。
カノルは一歩前に歩みでた。
「そりゃあ夜しか動けないけど、屋敷の中でも遊べるし、森ん中も面白い所があるんだぜ。」
カノルはずっと切なそうに微笑みかけていた。
声が少しでも届くようもう一歩少女に近寄る。
「俺が一緒に教えてやるから...もう怖がんなくていいよ。」
ビアリーはゆっくりと顔を上げて表情の無いままカノルを見た。
もう一歩進めた足は小さな木片を踏んだ。
「それでも怖かったら、俺が一緒に居てやるから。」
カノルの目から涙が落ちるのを見ると、ビアリーは少し目を見開いた。
周りを大きく囲んでいた魔力は徐々に小さくなり、その体に薄く纏うように有るだけになった。
ビアリーの表情が歪み、泣き出しそうな顔でカノルを見つめた。
カノルは思わず駆け出して、まだ魔力の消えないその体を抱きしめた。
「カノルっ!」
ドストミウルが手を出す間もなく、ビアリーの魔力はカノルの体に電撃のような痛みを走らせた。
電撃と共にカノルの体に通ったのはビアリーの暗い記憶だった。
「そっか...そっか、辛かったんだな、ビアリー。もう大丈夫だから...」
その弱まった魔力はすぐに消え散り、正気に戻ったビアリーは涙の出ない泣き顔でその暖かい体にしがみついた。
「...どうやら、何とかなったようですね。」
暴走した魔力が消え去った事が分かると、ドストミウルの斜め後ろにいたヂャパスはそう呟いた。
ドストミウルは出しかけていた手をゆっくりと戻した。
俺はその後、しばらくの間ドストミウルに軟禁された。
ビアリーに負わされた傷は全身に軽いやけど程度だけど、治るまでは部屋から出るのは禁止。もちろんビアリーとの接触は厳禁。
正気を取り戻したビアリーはひどく反省をし、ドストミウルやバーバラ、ヂャパス、迷惑をかけたみんなにひたすら謝っているらしい。
そして、ビアリーはドストミウルと話をしてアンデッドとしてドストミウルの配下になる事を選んだ。配下になる事でビアリーの魔力はドストミウルが管理する状態となりあの時のような暴走はしなくなるらしい。
俺はドストミウルにとやかく叱られるものだと覚悟していたがそんなことは無く、部屋では俺の体を心配するかビアリーや皆がどうしているかのいつものような話しかしなかった。
「完治!」
「まだだ。背中と腕の深めの傷が痛むだろう。」
「こんぐらい仕事してても気にならないって。なあ~その前に退屈すぎて死んじまうよ。」
ベットの上で悪態をつく俺をドストミウルはそっと眺めていた。
「...一つ聞いて欲しいのだ、カノル。」
「なに?」
「私は...あの時、ビアリーの力が暴走した時、彼女を消そうと思っていた。」
「ああ、そんな雰囲気かもし出してたな。」
「ビアリーだけではない。私に反骨するバーバラもろとも消す事も厭わないと思った。」
ドストミウルはカノルから視線を逸らして古びたカーテンの隙間から夜の闇を見つめた。
「君の言う通り私は非情な化け物だ。」
「仕方ないよ、アンタは王様なんだし何かを守るために何かを捨てる選択を迫られる時もある。第一、アンデッドの王様が情に厚い仲間思いの優しい奴だっら笑っちゃうぜ。...あ、もしかしてあの時言ってた俺の暴言に傷ついた?」
「いいや、君の言うことは正しい。今回だってその事が結果に現れたようなものだ。」
「じゃ、今回は俺の勝ちだね。」
ドストミウルは得意げに笑うカノルに急に近寄ると額が当たる程顔を近づけた。
「本当にそう思っているのかね?」
「はあ?」
「あの時君が言ったこと、私はしかと覚えている。」
カノルはドストミウルの言うあの時を思い出して顔を引き攣らせた。
「な~んか言ったっけなぁ...?」
「男に二言はないだろうカノル。」
「あー、んー...。冗談だったって事にしない?」
「ほう、非情なのはどうやら君の方だったらしい。私を騙して心を弄んだのか?」
「かっ、人聞きの悪い事言いやがる...」
ドストミウルはカノルの耳元に顔をぐっと近づけた。
「今の正直な気持ちでいい、教えてくれ。私を愛しているか?」
ドストミウルは視線が合うようカノルの顎を掴んでこちらを向かせた。
「だっ、...あのっ、」
カノルは視線を逸らしバツが悪そうにしていたものの、しばらくしてから耳まで真っ赤にしてこちらに向き直った。
カノルは腕を伸ばしドストミウルの頭を引き寄せる。
しんとした部屋にも漏れないような小さな声で、カノルはその耳元にその答えを引き渡した。
それを聞いたドストミウルがいかに満足したかは言うまでもないだろう。
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