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カノルの思い出 (家族のために)
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勇者部隊に所属する前、俺は冒険者をしていた。その頃は仲のいい仲間もいなかったし、特定のチームに入ることもしなかった。
だからいわゆる野良冒険者で、クエスト紹介所で会った奴と適当に組んで戦いに出ることが多かった。
「カノル、クエストも終わったしこれから皆で食事でも行こうよ。」
優しそうな魔法使いにそう言われたけど俺は首を横に振った。
「悪いけど、俺、そういうの苦手なんだ。戦う分にはいいけど、馴れ合うのは好きじゃない。」
「なによ、つまらない男ね!」
小柄な盗賊女がそう言って俺を不機嫌そうに睨んだ。
本当は別に皆でわいわいするのが嫌いってわけじゃなかった。確かに得意ではないけど、無駄な時間と金を使うのが惜しかった。
お陰で特別仲のいい友達なんて出来ず、孤独に過ごした冒険者時代だった。
勇者部隊に入ってからもそれは大して変わらなかった。
「カノル、今日の敵は大変だったし皆で打ち上げでもして疲れを取らない?」
仲間の盾の女がそう言った。
「お前らだけで行ってこいよ。俺、もう帰りたいし。」
「カノルっていつもそうですよね、そんなんだから友達居ないんですよ!」
仲間の魔法使いの女がそう言った。
「アンタにそんなふうに言われる筋合いは無い。」
俺がそう苦笑いを浮かべると魔法使いは不機嫌な顔をした。
「いいですよ、女子だけで楽しくやりますから!」
そんな声を聞きながら仲間に背を向けて歩きだそうと思ってたら、盾の女が駆け寄ってきた。
「お金ならあたしが出すから、たまには行かない?...息抜きも大切だよ。」
俺は女の顔を一瞬見て視線を戻した。
「別にそう言うんじゃねぇよ。苦手なだけ。あと、ずっとそうして来たから興味無い。」
「...そう。」
盾の女は少し寂しそうに頷いた。
気にしてくれるのは有難いけど、嬉しいとは思わなかった。俺はそういう生き方をしてるってだけで、誰かと仲良く出来ないのが悲しい訳じゃない。
「兄ちゃん、お帰り...今日はどこまで行ってきたの?怪我しなかった?」
白い壁に覆われた部屋で、白い顔をした妹は嬉しそうに笑って出迎えてくれた。
「リノア、兄さんだって疲れてるんだから話は少し休んでからにしてやれよ。」
今日も妹に付き添って居ただろう弟は、我儘な妹に困りながらも笑って出迎えてくれた。
「ただいま二人とも。今日はこの間行った森の奥まで行って中ボスみたいな毛むくじゃらの虫を倒してきたぜ。」
「何それ、大きいの?強かった?」
リノアはいつも目を輝かせて外の話を聞きたがる。家か病院かの行き来くらいしか出来ない彼女にとってそれは本の物語のような幻想的な話なのだ。
「ここの部屋くらいでかい奴だったぞ、リノアなんか一瞬で食われちまうかもな。」
俺が大袈裟にそう言うとリノアは余計に話にのめり込んだ。
「そんなのどうやって倒すの!?」
「何言ってんだよリノア、兄さんの弓なら一発で仕留められるに決まってんだろ。」
呆れたようにシエロが言った。
「本当に?」
「シエロお前なぁ、俺の事尊敬しまくってるのは知ってるけど流石に盛りすぎだろ。」
小突いてやるとシエロは嬉しそうに笑っていた。
「でもでも、兄ちゃんは大活躍でしょ?」
「まあ、ぼちぼちかな。」
期待と尊敬の眼差しを向けられて俺は頭をかいた。
「謙遜しなくてもいいのに。」
口をとがらせながらシエロが言った。
「お前だって勉強頑張ってんだろ?」
「シエロはね、またテストで学年トップ3番の中に入ったんだって!3番目だけどね...」
リノアは小さい兄を見てクスクスと笑った。
「今度は1番を狙っていくからね。1番とったら兄さん何かご褒美くれる?」
「ずるいよ!私も何かご褒美欲しい!」
そう二人に見つめられて俺は困り顔で笑いながら首を傾げた。
「そーだな...シエロは1番とれたらで、リノアは来月の検査頑張れたらな。なんか欲しいもんでもあるの?」
「僕は兄さんと2人きりで買い物する券がいいかな!」
「え?いいな、それ!私もそれにする!兄ちゃんとデート券!」
「はははっ、なーんだよそれ」
幼い子供のような要求に俺は笑いをこぼしていた。
二人は二人なりに金のかかるものや難しい物を要求しないよう気を使ってくれているのも伝わってきて、なんだか涙が出てきそうだった。
俺は家族の、二人のために生きるんだ。それをつまらないとか、可哀想とか何も知らない他人に思われたって知ったことではない。
こんなにも幸せな気持ちになれるのに、俺が報われていない訳が無いんだ。
心の底からカノルはそう思った。
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