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大切な貴方へⅡ①
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「カノル!明日は花の日だよっ!」
いつかのあの日を彷彿とさせるように、ツインテールの彼女は軽快に言い放った。
「はあ...そうっすか。」
「今年もカノルは旦那様にお花あげるんでしょ?」
今年もと言うか、前回は手違いで渡したようなもんで毎年恒例みたいにされても困る。
「どうすっかな...そういうお前は今年こそ情熱的な花をギド君にプレゼントするんだろ?」
「うーん、照れるけどいいお花探さなきゃな!」
照れながらも素直にそう言えるアリアは凄いと思った。
今年も渡したらどんな顔をされるだろうか。いや表情は無いから反応を見るしかないんだけど。変に狂喜されても気持ち悪いしな。
あげないと言う選択肢もあるけど、それはそれで可哀想というかちょっと申し訳ないし。
小さな悩みを抱えた俺はため息をついた。
「ビア、今日は森に行こうぜ。」
翌日の夜、俺は起きたばかりのビアリーの髪をとかしながらそう声をかけた。
ビアリーは不思議そうにこちらを見つめた。
「今日は花の日っていう、大切な人に感謝の気持ちを込めて花を送る日なんだと。面倒だけど、せっかくだからドストミウルに花でもつんできてやろうぜ。」
ビアリーは理解すると目を輝かせて頷いた。
そもそもビアリーはあまり外には出ないので、俺と出かけられる事自体を喜んでいる様子だった。
深い闇に落ちて魔王に支配されつつある今、森には仲間のアンデッド達も多くうろついている。
門をくぐり外に出てもそこは俺達の庭のようなものだ。
ビアリーは俺の手を握り、鼻歌でも歌っているように跳ねながら歩いていた。
こんな時言葉が分かったらなにか楽しい話でもしながら歩けるのになとは思ったが、とても楽しそうな様子を見られるだけで俺は満足だ。
しばらく歩いて、広い野原を見つけるとビアリーの手を離した。ビアリーは円を描くように駆け回ると、小さな花がたくさん咲いている場所に座り込んだ。
俺が近づくと小指ほどの小さな花を1つ摘み取って首を傾げた。
「それじゃあプレゼントには小さすぎるかな。でもそれなんて花なんだろうな。残念だけど、俺は植物なんて詳しくないから分かんないや。」
ビアリーは一度俺の方を見ると、また小さな花に視線を落とした。
「気になるなら今度バーバラと一緒に調べてみろよ。花の本とかありそうだし。なかったらドストミウルに頼んで買ってくるよう頼んでやるよ。」
それを聞くとビアリーは嬉しそうに目を見開いて頷いた。
ビアリーはもう一度野原を小走りで駆け回ると、色々な種類の花を見つけては立ち止まりじっくりと見つめていた。花に興味を持ったのだろうか。
そんな微笑ましいビアリーの様子をしばらく眺めていたが、はっとして自分の本来の目的を思い出した。ドストミウルにあげる花を探さなくてはならない。前回は偶然に見つけたが、いざ探すとなると見つからないものだ。
野原に小さい花はたくさんあるものの、目を引くような珍しい花は見当たらない。
少し見回しただけだが面倒臭くなりカノルはため息をついた。
「もう少し考えておけば良かったかな...」
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
街に買いに行く、庭で栽培するなんて方法もあったかもしれない。どちらもこっそりとするのは無理そうで現実的ではないにしろ、他の方法を探す余地はあったのではないだろうか。
そもそも前回にあげた花をドストミウルは喜んでいたのだろうか。部屋に飾ってはくれていたが、喜びを露にしている感じでもなかった気もする。まあ、あの時は今のように関係をはっきりさせていなかった言うのもあるが、花くらいで死の王が喜ぶだろうか。
考え事をしながらしばらく夜空を見上げていると、静まり返った草花を風が撫でた。
さらさらと草同士が擦れる音だけが闇に響く。
「...あれ?」
静か過ぎた。
見回すとビアリーの姿が見えなくなっていた。
「ビアリー!?どこいった!」
少し大きめの声でそう言ってもビアリーは姿を表さなかった。
あの子はアンデッドだし、この辺りもドストミウルの部下が多い。早々に危険がある訳じゃないだろうけど、やはり不安にはなった。
俺は駆け足で野原の周りを探し始めた。
野原の周りをぐるりと探していると、草がかき分けられた後を見つけた。大きさ的にも獣ではなさそうだ。
その跡をたどって行くと苔が生えた大きな岩があり、その横でちょこんと座って何かを覗き込んでいるビアリーの姿を見つけた。
「おい、ビア〜。急に居なくなるから心配したぞ。」
わざとらしく肩を下げてそう言うとビアリーはこちらを少しみてある場所を指さした。
ビアリーの指先は岩のすぐ横から生えている花を指していた。
俺が花を見たのを確認すると、ビアリーは得意げな顔でこちらをみて首を傾げた。まるで、これなんかどう?とでも言っているようだった。
「なんか良さそうな花があったんだな、それにしてもよくこんな所...」
俺は花に近づいてある事に気がついた。
「これ...」
言葉をつまらせた俺を見てビアリーは不思議そうに首を傾げた。
それは俺が以前にドストミウルにあげた花と同じものだった。
同じような場所、同じような時期、元々の生息域で同じようなものが見つかるのは当然の事なのかもしれないんだけど、なにも知らないビアリーが俺と同じものを見つけたことに変に運命みたいな物を感じてしまう。
そんな事を考えて固まっていたから、ビアリーに心配されて肩を叩かれた。
「ん?ああ、ごめんな。いや、良さそうな花見つけてくれてありがとな。」
俺が頭を撫でるとビアリーは嬉しそうに目を細めた。
俺はその花を丁寧に摘み取った。
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