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冥界の呪い①
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特別に用事があった訳では無いが、俺は部屋にいなかったドストミウルを探して屋敷中を歩き回っていた。
今日非番だった俺は部屋にいたドストミウルをスルーしてビアリーと外で遊んでいた。しばらくして部屋に戻ったらドストミウルは居なかった。そのまま何気なく探し始めてすぐに見つかるだろうと思ったら全く気配がなかった。
断じて寂しくて会いたいとか心配という訳では無い。
今日は屋敷にいると言ったはずの御仁が居ないのが不思議でしょうがなかった。何よりいつでもどこでもがモットーのヂャパスも見つからないと言うのが何か引っかかった。
お父様探しに飽きたビアリーをバーバラに預け俺は地下室に向かった。
暗くジメジメした階段を降りて古びた扉を開けると、地下室を守る番人はいつもの定位置でいつ来るとも知れない敵を今日も待ち構えていた。
「おつかれー」
「む、カノルか。どうした。」
「ドストミウル知らない?さっきから見当たらなくてさ、職場でも行ったのかな〜」
長身、というか巨大なデュラハンは鎧の音を暗闇に響かせてこちらに体を向けた。
「主様なら先程死霊室へ向かわれたぞ。」
「しれいしつ?」
首を傾げたカノルを見かねて、ゲイルは人の姿になるとカノルの前に立った。
「初耳、という顔だな。」
「初耳ですから。何それそんな部屋この屋敷の中にある訳?」
「屋敷内ではないが、この地下深くにある。」
ゲイルが下を指さすと、俺も思わず何もない地面を見つめてしまった。
「どこにあるか教えてよ。」
「お前をあそこに連れて行って良いものか我には判断ができん。非常に闇の魔力の強い場所だ。我も特質行きたい場所ではない。」
「俺が行きたいって言って連れてくなら大丈夫っしょ!旦那様大甘だし!」
いたずらそうに笑うカノルに折れたゲイルは、珍しくその立ち位置を離れる事になった。
予想以上に多い階段を下った。最近鈍ってるとはいえ少し前は現役だった俺の膝が震えだしそうだった。地下室は詳しく調べたことがなかったとはいえ、こんなに深くまで作り込まれているとは知らなかった。
帰りは誰かに運んでもらおう。
ゲイルの導きで小さな魔法の灯りを頼りに螺旋状の石の階段をひたすら下った。
闇に包まれた地下のその更に下、深くなるにつれ空気と音が密閉されたように遮断されて行くのを感じた。
「もうすぐだ。」
そう言われてから更に下る。ちょっとずつ空気が重くなるのと息苦しさを感じ始めた。空気が薄いのかもしれない。
そして階段の先の暗闇に少しだけ光が見えた。
「なに、あれ。」
「光っている場所には触れぬ方がいいかも知れんぞ。」
階段が終わり、近くに行ってわかった。光っていると言ってもそれは赤黒く禍禍しい煙のようなものが発する光だった。それは地面や壁からゆっくりと染み出ては消えて行く、息苦しさも空気の重さもその瘴気によるものだというのが直感でわかった。。
俺は咄嗟に魔王の城の地下を思い出した、ここの空気はあの場所によく似ている。ゲイルの言った通り人間には良くない場所だと察した。
「気分悪くなりそう。」
「引き返すか。」
俺は首を横に振った。ドストミウルがこの場所でどんな事をしているのかを確かめたかった。ゲイルが心配して闇耐性の魔法をかけてくれて、少し気が楽になった。
階段が終わると赤黒い瘴気の立ち込める部屋を真っ直ぐ進んだ。歩き続けると、壁が広がり部屋が開けた。
咄嗟にカノルの前にゲイルが手を出し前進を制止しする。
「足元に気をつけよ、カノル。」
「おっ...」
数歩進んだ先に水のように溜まった瘴気の池のようなものがあった。よく見るとここだけでは無い、あちらこちらに赤黒い光を放つ池が足元に穴を開けている。
「これ、落ちたら死ぬかな。」
「我にもどうなるかは解らぬ。」
俺はしばらくその真っ黒な深淵を見つめていた。
「ゲイル、そこにおるのか!」
闇に響いたのはヂャパスの声だった。足音と共に小さな包帯の老人が近づいてきた。
「急用でもあったか...なっ!カノル、何故こんな所に来た!」
執事長にしては珍しく声を大きくして驚いていた。
「んー、興味本位で。あ、ゲイルを責めないでね俺が無理して頼んだんだからさ。」
へらへらといつものようにふざけた様子のカノルを見てヂャパスは呆れたようにため息をついた。
「お前さんの事だからそうだろうな。だが、ここはお前にとっては危険じゃぞ。」
「爺さんたちにとっては危険じゃないの?」
「むしろ居心地がいいくらいだわい。」
アンデッドからして居心地の良い場所が人間にとって居心地の良い場所じゃないことは、まあ屋敷に来たときに痛感した気がする。
「話し声でまさかとは思ったが...」
音も立てずにドストミウルが近くまで寄ってきていた。
「ちーっすー、おつかれ。見当たらないからさ、探しに来ちゃった。」
「むむ、会いに来てくれるのは嬉しい事だがここは君にとっては良い場所ではない。早々に上に戻った方がいい。」
これまたふざけたように笑うカノルに対して、ドストミウルはいつも以上に落ち着き払った口調で返した。
「ここって何する場所なの?」
「冥界へと繋がる場所だ。近頃疎かにしていた冥界の仕事をしていたのだ。」
「冥界の...?」
冥界と言えば死後の世界だ。死の王と言うだけあって冥界とも繋がりがあったのか、知らなかった。ドストミウルはただの強いアンデッドモンスターというだけでは無いのだろうか。その辺は後で詳しく聞いてみようと思う。
「とにかく、君はそろそろ戻った方がいい。君が退屈なら私も地上へ戻ろう。」
「なっ、別に戻ってきて欲しい訳じゃねーし!興味本位でこの場所を見に来ただけだから!」
これではまるで俺が寂しくてドストミウルを呼び戻しに来たみたいで、恥ずかしくなった。
「わかった、では私ももうしばらく仕事をしてから戻る事にしよう。」
「おう、まあ頑張れよ。」
さあ帰ろうかと後ろを向いて一歩踏み出した時、照れ臭さで動転した気と疲労でだるくなった足のせいで俺はバランスを崩した。
咄嗟に手をつこうとしたがそこに地面は無かった。
慣れない闇で塞がれた視界は、すぐ横にあった黒い池を捉えきれていなかった。
カノルは瘴気の池にその身を落とした。
ゲイルは反射的にその腕を掴み、体半分ほど沈みかけたカノルをすぐに闇から引き上げた。
「カノル!」
ゲイルはカノルを抱き寄せて顔を覗き込むものの、目を閉じたまま意識はなくその体はくぐったりとしていた。
「カノル、カノル!」
ドストミウルもすぐに近くに来たが、カノルは瞳を開けることは無かった。
ただ、ドストミウルがカノルの胸に指を当てると浅く小さな呼吸を続けていた。
「旦那様...これは...」
ヂャパスも心配して目を閉じたままのカノルの顔を覗き込んでからドストミウルを見つめた。
「ゲイル、このままカノルを早急に地上へ運べ。ヂャパスも私と共にすぐに上がれ。」
「主様...カノルは助かるのですか。」
動揺し声を少し震わせつつも、カノルをしっかりと抱き寄せたままゲイルは主に問いかけた。
「深い死の呪いにかかったのだろう。治すには手間がかかるだろうが、放って死に至らせる事だけはしない。ゲイルこれはお前にも手伝ってもらわねばらなん。」
「はっ。我に出来ることであればなんなりと、我もカノルを死なせたくはありません。」
力強くこちらを見るゲイルにドストミウルは深く頷いた。
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