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冥界の呪い②
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カノルを蝕む呪いは根深いものだ。冥界に近い深層であの瘴気に浸かってしまったのだ、そう容易く解決できるものでは無い。
あの時私が地下にいなければ、カノルが心配する程部屋をあけなければ、ゲイルに地下へ来ることを禁じていれば、等と後悔が過ぎったがこうなってしまった以上後ろを向いている訳には行かない。
幸いにも私はこの呪いを解く方法を知っていた。正確に言うとどんな呪いでも解ける者に見当がついていた。だが、面倒な事にその者に私は特段嫌われている。
とはいえカノルを失うという選択肢は存在しないのだ。
心配そうに我々を見つめるビアリーに見送られながら、ヂャパスとゲイルそして意識のないカノルを連れ私は早急に馬車を走らせた。
早朝の薄い陽が若葉を透かす、青々とした地面に降りそそぐ木漏れ日で地に咲く花木は輝いていた。
穏やかな風、鳥のさえずり、草の揺れる音。
魔王に支配されつつある世界でも生命の源と称される深き森は輝きを放っていた。
そんな命溢れる森に似つかわしくない漆黒の馬車が止まる。そこから降り立った3人の男は死の匂いを纏っていた。
昼間ということもありドストミウル、ゲイル、ヂャパスの3人は人の姿に擬態しこの森を訪れていた。
馬車を降りると3人は草木が生い茂る道無き道を進んだ。森は深く入り組んでいたがゲイルの先導で迷う事なく目的地に向かい彼らは歩いた。
森の守護者達はすぐにその異変を感じ警鐘を鳴らす。
「カエレ...」
「闇へ帰れ...」
「生命の聖域を侵すな...」
進むにつれどこからともなく囁くような警告が聞こえる。が、それを無視し続け男たちは森の奥へと進んだ。
「立ち止まれ冥府の使いども!」
突如としてその行く手を阻むように3つの人影が立ち塞がった。
現れた人影は幼い少女のような姿だが背からは透き通る羽根が伸びている。森の守護者である妖精だ。
気がつけば周囲の茂み、木の上、石の影などにも妖精たちが潜みドストミウル達を睨みつけていた。
「これ以上の侵入を禁ずる、出てゆけ死者共!」
真ん中にいた妖精が一歩足を踏み出し、金髪のドストミウルを指差した。
「事前の通告もなく突然来た事は詫びよう、だがこちらも急を要する事案でね。女王に謁見を申し立てたい。」
ドストミウルは臆すことなく妖精たちを睨み返した。
「ふざけるな!勝手に侵入しておきながら女王様へ謁見したいだと?」
端にいた妖精が声を荒らげて足を一歩踏み出した。
その時森から一際大きく響く囁き声が聞こえた。
「彼らを通しなさい...」
柔らかく透き通るような声が森じゅうに響き渡る。
「女王様...」
妖精たちは不安そうに顔を見合わせた。
森の奥深く、美しく透き通る泉の湧く広場にドストミウル達は招かれた。
女王と呼ばれる妖精の姿は他の妖精に比べ一際大きく、金色に輝く透き通る羽を有していた。
「久しいですね、死の王そしてゲイル...前に会った時から数百年は経ったでしょうか。」
長い髪を蔦で結い、天然の花飾りで彩られた服を纏う。命の森を守る女王は静かに来訪者を見つめていた。
「さあ、いつの事だったかな、私はもう無意味な時を数えるのは止めてしまったのでね。」
人の姿をしたドストミウルは表情を作ることもなくただ淡々と言葉を返した。
「お久しぶりです女王陛下。」
ドストミウルの後ろに控えていたゲイルは小さく一礼をした。
「裏切り者め、よくもぬけぬけと御前に立てたな!」
周りを囲んでいた妖精の1人がゲイルに向かい怒声を上げた。
ゲイルは気にする様子もなくただ主の背を見ていた。
「死者の国は居心地がいいですか?」
女王は目を細めてゲイルをみた。
「居心地の善し悪しで選んだつもりはありませんが、不自由はしていません。」
ゲイルは真っ直ぐ女王の目を見返した。
女王は視線をドストミウルへと戻す。
「要件はわかっています。その人間を助けたいのですね。」
妖精の女王はドストミウルの腕の中でぐったりとするカノルを見つめた。
「ああそうだ。お前なら治せるであろう。」
「ええ、そうですね治してあげましょう。彼をここへ。」
ドストミウルはゆっくりとカノルを言われた場所へと寝かせた。
「もしも傷つけたら貴様もこの森も消し去る。」
ドストミウルは女王を睨みつけたままカノルを置いた位置から数歩下がった。
「人にものを頼む態度とは思えませんね。」
そう困ったように笑うと女王は手を高く挙げた。
「捕らえろ!」
妖精の1人がそう叫ぶと魔法で作られた網がドストミウル達を覆う。
「なっ、無礼だぞ貴様ら!」
「旦那様...!」
ゲイルは怒りを露わにし、ヂャパスは反撃の指示を求めたが、ドストミウルは何も言わずに網に絡め取られていた。
「これが条件だというなら飲もうではないか。」
ドストミウルは抵抗のひとつもすることなく女王を見ていた。
「変わりましたね死の王...。この者たちは牢獄へ連れてゆきなさい。」
女王が命じると複数の妖精達がドストミウル達を囲み牢獄へと追いやり始めた。
「さあ、死の王の宝とはどんなものでしょうかね。」
女王は愉快とでも言うように笑みを浮かべていた。
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