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冥界の呪い④
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森の出口近く、妖精の女王は突然の訪問者たちを暖かく見送っていた。
「じゃあね、女王サマ。本当にありがとう。」
「私の方こそ本当に助かりました、条件のいい条約が結べて満足です。」
ドストミウル達は少し先でカノルが女王との別れの挨拶をするのを見守っていた。
「貴方さえ良ければいつでも遊びに来て下さい。」
「いやいや、ほら俺って一応アンデッドの仲間だし、不可侵条約に引っかかっちゃうでしょ?だから…お別れ。」
「そうですね、貴方は立派なアンデッド族です。ゲイルも行ってしまって少し寂しいですが本人の意思を無理に変えることはできません。」
カノルはゲイルの名前が女王から出たことに疑問を抱いた。
「ゲイルが行ったって何?」
「知りませんでしたか、ゲイルは元々我ら妖精族出身です。ですが、何故かドストミウルに感銘を受け離反してしまったのです。」
「はーん、そうだったんだ、知らなかった。」
そう言われてみればゲイルはアンデッドとは少し雰囲気が違うところもある気がする。闇魔法以外も結構使えるし、今思えばそういう事だったのかと納得できる。
「離反した彼を悪く言う者も少なくはありませんが、私は彼の意志を尊重したいと思っています。非常に勤勉で真面目な子です、仲良くしてあげて下さい。」
「もう仲良いから安心して。」
そんな話をしていたらゲイルが駆け寄ってきた。
「カノル、ドストミウル様がお待ちだ。そろそろ行こう。」
ゲイルは女王の前に出て深々頭を下げた。
「この度の施し、我からも最大の感謝を込めたく存じ上げます。数々の無礼をお許しください。」
「いいのですゲイル、私は貴方の元気な姿が見られて喜ばしく思います。さあ、もうお行きなさい。」
ゲイルは女王の顔を見上げ、少しだけ寂しそうに笑った。もう一度だけ深々と頭を下げた。
「じゃあ女王サマも元気でね。」
カノルは女王に手を振るとゲイルと共にドストミウル達の待つ馬車の方へと去っていった。
女王は微笑みながらカノルの背に手を振っていた。
「なんでゲイルってアンデッド族なんかに入ったの?」
馬車に乗った帰り道、一番の疑問をゲイルにぶつけてみた。小声で 「なんかとは...」となんとも言えない顔でドストミウルが呟いたのは無視するとしよう。
「それはな、我は悪役に憧れていたのだ!威圧感をだし人間たちを追い詰め、容赦なく倒してゆく、そしてかっこよく台詞を決める!格好良いとは思わぬか!?」
「ガキかよ...」
呆れた顔でゲイルを見るカノルにドストミウルは言葉を挟んだ。
「妖精は純粋な生き物だ。ゲイルもまた純粋であるゆえに行動力と忠誠心には目を見張るものがある。」
ゲイルはそれを聞いて背筋を伸ばすと、少し驚いたような顔をしてドストミウルを見た。
「アンデッドはやる気も忠誠心も曖昧なやつ多いしな。アンタは優秀な部下貰えてよかったね。」
「正直な所、森ではほとんど動かない番人をしていてな、退屈だったのだ。」
ゲイルは照れくさそうに言った。
「今もほとんど動いてねーじゃん、可哀想に...ドストミウル、ゲイルに仕事増やしてやれな。」
カノルが肘でドストミウルを小突くとドストミウルは深めに頷いた。
「そうだな善処しよう。」
そうは言ってもどこまで善処してくれるのかはわからなさそうだ、部下の扱いは割りとぞんざいだったりするし。女王様にも頼まれたことだし、ゲイルの仕事をちゃんと増やしてやるよう俺が見てやった方がいいのかもしれない。
「ちなみにさ、今回の条約って破ったらどうなるの?」
「種族としての品位が下がる。それはそのまま種族全体の能力も下げる事になる。いくら敵対している相手でも結んだ条約派守るのが基本だ。」
少し肩をすくめておじ様ドストミウルは頷いた。
品位ということについてよく分からないが、種としての能力が下がるというのは、戦闘にも響くことだろう。そうなればそう簡単に破る事が出来ない約束だ。
「なるほど、なんかやべー事したな俺。」
カノルは苦笑いを浮かべた。
「今となっては君とのいい思い出だよ。」
ドストミウルは少し笑った。
「流石ですドストミウル様、お心が広い。」
ゲイルは憧れの眼差しでドストミウルを見ていた。
「君が生きていてくれて本当に良かった。今の私の胸にあるのはただその思いだけだ。」
ドストミウルは元気な様子の恋人を目を細めて見つめていた。
「本当、どこまでやったら見捨ててくれるんだか。」
「何をやったって見捨ててやらんよ。」
呆れて目を閉じるカノルを見て咄嗟にドストミウルはその唇に口づけをする。
「ばっ!てめぇ!ゲイルがいるんだぞ!」
焦ってカノルがドストミウルの肩を突き飛ばす。
「みっ、みてない、大丈夫であるぞカノル!」
ゲイルは顔を両手で覆いながらも顔が真っ赤になっているのが見えた。
その反応にカノルはくすりと笑ってしまった。
「…妖精は純粋って、なあ。」
煌めく陽の差す穏やかな森には似つかわしくない黒い馬車は来た道をもどり、さびれた屋敷へと帰ってゆくのであった。
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